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最近の俺が見る壱人の顔は、斜め45度で見上げる横顔だけだ。通学途中や学校の廊下で見掛ける壱人に後ろから近づいて、真横から見上げて話し掛ける時の。
そんなの、もう友達でさえないじゃんか。それって、ただのクラスメートや知り合いのレベルじゃん。そう思ったらなんだか泣けてきた。
あの日から今日まで雨が降ることはなく、壱人の彼女から借りた傘を返すきっかけも失ってしまった。彼女の傘は今もベッドサイドに置きっぱで、たまに眺めては溜め息をつく毎日を送っている。
壱人とは補習で顔を合わせるだけで、もう何日も会話はしていない。それでも壱人は一向に気にしていないようで、壱人と縁を切るのは案外簡単だったのかも知れないな……、なんてぼんやり思ってみたり。その時、
「実は去年の練習試合で肘 を傷 めてさ」
不意に下りてきた橋本のそんな言葉が、ぐちゃぐちゃに絡まった俺の思考を遮断した。
「え。肘を傷めたっておまえ」
「まあまあ。そんで速い球が投げれなくなってちょっとだけサボり気味。俺、投げること以外は取り柄がないからさ」
橋本のことを知ったのは二年生になってからで、去年のことは何も知らない。真面目に練習しているところも見ないし、たまに部活をサボったりもするし、補欠だっていうし。だから俺はてっきり、真面目に野球に取り組んでいないんだとばかり思っていた。
「……部活、辞めねえの?」
思わずそんな不躾 なことを聞いてしまった。しまったと思ったけど遅すぎた。橋本は泣きそうな、困ったような顔をしてこんなことを言ってくる。
「思ったよ。何度も。けど辞められねえのな」
言い終わった瞬間にはいつもの橋本の顔に戻り、にししと笑って見せた。
「監督からさ。マネージャーをやらないかって言われたけど、マネージャーじゃ意味がないんだよ。速く投げられなくても野球はやって行きたいし、打てなくても下手っぴでもどうしてもやりたくて」
キャッチボール程度なら普通にできるし、大きな当たりは打てないけどバットを普通に振るだけなら問題ないし。そう続けながら、橋本は最後に笑ってこう締 め括 った。
「10年以上、ずっと好きだったんだぜ? そう簡単に諦められるわけないじゃん」
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