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(……やっぱこうなんのか)
それから一時間後。ようやく姉ちゃんのそれは終わった。
「おお。まだ腕は落ちてないなあ」
なんてご満悦な姉ちゃんをよそに、俺は軽い目眩 を覚える。花火大会の話を朝からしていたのは姉ちゃんで、何か企 んでいるなとは薄々思ってたけど。
(久しぶりに出たよ。姉ちゃんのコスプレ好き)
しかもオタクで腐女子な姉ちゃんは、可愛い弟をその実験台にしたがる。
「ねえ、泉。ちょっとそこでくるりと一回転してみて」
言われた通り、くるりと回ってみる従順で可愛い弟 。初めて実験台になったのはいつだったっか忘れてしまったけど、あの時はコスプレのイベントにまで駆り出されてしまった。
確か姉ちゃんのコスプレは魔法少女なんちゃらとかいうアニメの主人公で、姉ちゃんが俺に変身させたのはその主人公の妹分のキャラだったよな。
「相変わらず似合うよね。泉って」
……姉ちゃん。そう言われても、俺、一向に嬉しくないんですけども。目の前の姿見の中には一人の見知らぬ女の子。薄紅色の浴衣を可憐に着こなして、決して美少女とは言えないが、それなりに普通に可愛い子。
恐るべし、お化粧マジック。長い付け睫毛や薄めのメイクのお陰か、もともとが女顔の俺は姉ちゃんの手によって完璧な女の子に変身させられてしまった。
「今日さ。壱人くんと花火大会行くんでしょ」
「ああ。うん」
「それで行ってきなよ」
そんな恐ろしいことを言われたのに、なんだか胸がドキッとしたりして。自分で言うのもなんだけど、この姿はどこからどう見ても女の子以外の何者でもなくて、百パーセント俺だとばれない自信がある。
「……姉ちゃん。ありがと」
恥ずかしさとか、男としての心の葛藤がないわけじゃない。それでも俺は姉ちゃんに礼を言って、そのコスプレとも言える姿で祭りに行くことにした。
そう言えば昔、壱人も一緒に姉ちゃんの実験台になったことがあったっけ。あの時の壱人は、俺の百倍可愛かったことを思い出したりして。
「……泉?」
その日の夕方。5時過ぎに迎えに来た壱人は、俺の姿を見て固まってしまった。
(たはは。うんうん。やっぱりな)
わかるわかる。やっぱ違和感があるよなと心の中で独りごちた瞬間、
「……可愛い」
「へ?」
色ぼけした壱人は、急にそんなことを言いだした。
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