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04
ちょっとちょっと。そこは笑い飛ばすとか、吹き出すとか、ツッコミを入れるとかでしょうが。なーんてことを思いつつ、壱人のその一言は実は素直に嬉しかったりもするんだけどさ。
6時が過ぎて夕闇が迫る頃。普段着の壱人と二人、手を繋いでお祭り会場へと向かう。なんだか照れ臭くて、くすぐったくて、途中で何人かのクラスメートや友達と擦れ違ったけど誰も俺には気付いてないようだった。
「なあ、泉。俺はおまえとこうして歩けて嬉しいけど……」
「けど?」
「なんか慣れてねえ?」
「なにが?」
「女装」
いや。女装ってかコスプレにね。実は慣れてしまってるわけですよ、悲しいことに。初めてコスプレした時から今まで、実は俺が男だってことは一部の親しくしているコス仲間以外にはばれてなかったりする。
浴衣を着たのは初めてだけど、明治時代の女学生のコスプレとか巫女なんかの和装のコスプレはしたこともあるし。慣れってほんとに恐ろしいよね。
「いや?」
「や。嫌じゃねえけど……」
うん。だろうな。おまえ、基本的には女好きだし。ぶつぶつ文句を言いつつ、壱人は繋いだその手を離そうとはしない。
明日になれば、壱人に他校生の彼女が出来たって噂になるだろう。そうなれば壱人に女が言い寄って来ることもなくなるし、俺にとってはそれは願ってもないことだ。
花火が始まる時間まで、金魚すくいや射的ではしゃいだ。花火を見ての帰り道、
「あ」
「ん、どした?」
まるでドラマや映画のように、突然切れた下駄の鼻緒。
「ほれ」
「え。いいよ。重いし」
「いいから」
なんて、恥ずかしげもなくいちゃラブな俺たち。普段のかっこなら絶対やれないことだからか、俺も少しだけ大胆になっている気がする。
「なあ。壱人」
「なんだ」
「……なんか焦ってる?」
別に。とかクールを気取って言ってるつもりだろうけど、俺をおぶった壱人は半ば駆け出すように家路を急ぐ。
あーれー、なんて悪代官と町娘ごっこはやらないまでも、家に帰ってもまたいちゃラブな俺たち。こんなに余裕のない壱人を見るとか滅多にないし、たまにはいいかも。
なんて思ったのが甘かった。
「え。来週もデート?」
定期的に外でデートをするようになって嬉しいんだけど、そのたびに壱人から女装を強要されるようになったわけで。
2010/10/09/完結
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