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「……間抜けなつら」  小鼻を軽く摘んでやったら、 「――ふがっ」  一瞬、いびきが止まって、 「……ふっ」  その手を離せば、静かな寝息が聞こえてきた。 「おいおい。やるだけやっといて、恋人をほっぽらかして爆睡かぁ?」  とかなんとか言いつつ幸せな時間。まだ壱人がシャワーを浴びてないことが少しだけ気になったが、構わず壱人の隣に寝転んだ。壱人の胸に縋り付くように引っ付けば、無意識にきつく抱きしめられる。  この広い胸も優しい腕も俺のもんだ。俺が壱人の隣にいていいのかどうかは別にして、そんなことを考えて微かな優越感に浸る。結局、その日はそのまま夜まで二人ともが熟睡してしまった。今日は一回しかやってないのに……、なんて心底悔しそうにほざく壱人をほっといて、(ひさし)伝いに自分の部屋へ戻る。  結局、答えは出なかった。と言うか、出ないのは端からわかってるから考えるのはやめにした。隠れみの……、か。上等じゃん。こうなったらとことん利用してやる。  別に俺たちは世間に背いてだとか禁断の関係だとかは思ってないけど、俺たちの関係が学校にばれたら何かと厄介だろう。ベーコンレタスな世界のように、周りにすんなり受け入れられるはずがないのはちゃんとわかってるから。  姉ちゃんのお陰(?)ですっかり腐男子になった俺だけど、妄想と現実の区別はきっちりついている。そもそも、男同士のセックスがあんなに綺麗なわけないからね。まあ、これも実際に経験してみて初めて、しみじみと思ったことなんだけど。 「…………」  不意に昼間の情事を思い出して、俺はベッドに突っ伏した。別にいいけど、確かにちょっと物足りない。この後のことは15禁設定の都合上、想像にお任せするとして。 「……はあ」  早急なソロプレイの後の少しの罪悪感の中、ティッシュで後始末をしながら部屋の中を見渡せば、大量の漫画が詰まった本棚と真新しいゲーム機が目に入る。  中学時代からの俺の趣味は漫画だったが、壱人が再び部屋に来るようになってからゲーム機を買った。万が一にでも母さんが部屋に入って来た場合、二人で漫画を読み耽るふりをするより対戦ゲームをしているふりをする方が自然だからだ。ゲームの音で、ある程度の漏れる音はごまかせそうだし。 「馬鹿とハサミは使いよう、か」  壱人の馬鹿は恋は盲目な罠に嵌まってるようだし、事実と違うことが少し気になるが、噂を隠れみのにさせてもらうことにする。  別に人前でいちゃいちゃしたいわけじゃないし、こうして壱人と一緒にいられたらそれだけでいい。

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