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(……なんでこうなった)
壱人に化粧をしているところを見られたあの日から、事態は目まぐるしいほどに急変した。なーんて大袈裟に言ってるけど、とどのつまりは新たな噂に悩まされることになってしまった。
「でね……、って、泉ちゃん、聞いてる?」
「はいはい。ちゃんと聞いてるから、ちょっと声のトーンを落としてよ」
ただ今、本来ならばとても嬉しい昼休み。橋本はいつものように10分程度で弁当を掻っ込んで、自主練をしに教室を飛び出して行った。
それを見計らったかのように、俺の隣を陣取ったのが結木さん。にっこりと例の不適な微笑みを浮かべ、隣り合わせの机を向かい合わせに並べ替える。それからその席に陣取って、
「そこでフラグが立ってしまったわけよ。思わず滾 るを連発したし!」
返事の代わりに一方的に、一応は声をひそめて。それでも興奮気味に萌え話をまくし立てた。
「つか、結木さん。唾飛んでる」
「でねでね!」
……聞いてないし。
目の前の美少女は唾は飛ばしてるわ、口の中のものも一緒に飛ばしてるわで目も宛てられない。それでも本人は全く気にしていないようで、延々とベーコンレタスな話題のお喋りは続く。
結木さんのネホリーナ&ハホリーナ攻撃から逃れるために、俺は腐女子の姉ちゃんの影響で自分が腐男子であることをカミングアウトした。そしたらその瞬間に目の色が変わり、この有様だ。
本当のことを言うと俺も姉ちゃん以外とこっち系の話をするのは初めてのことで、結木さんと話すのは、実は少なからず楽しかったりもするんだけど。
「……はあ」
いかんせん、この刺さるような視線が……。
壱人といる時は、男同士だから注目されないんだろう。壱人の幼なじみがうちの高校にいることは皆に知れ渡っていて、俺の顔は覚えてなくとも壱人と一緒にいれば幼なじみだと認識してくれるし。
だけど俺と結木さんの場合、まさか俺たちが壱人の現在の彼氏(でいいのか?)と元カノだとは誰も思わないだろうし、もしもそうだとしてもこの関係が仲睦 まじいと言えるかどうかは別にして、こんなに和気あいあいと話してるとは夢にも思わないだろう。
つまりは結木さんは、間違いなく壱人と別れて俺と付き合い始めたのだと思われているはずだ。実際の俺たちは腐女子と腐男子のコンビで、ただの腐レンド(上手いこと言った!)なのに。
一難去ってまた一難。とにかくモテる男で人気者。何かと目立つ壱人といると、小さなトラブルは避けられないんだろうか。
「……はあ」
結木さんには気付かれないように、俺はもう一度、小さく溜め息をついた。
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