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 それより俺は、女の子が壱人の隣にいる方が男といるよりも何倍もきつい。そんな俺に反して壱人は、 「けどさ。泉の可愛さは性別とか関係ないし」 「はあ?!」  なんじゃそりゃとか思わずツッコミを入れたくなることをのたまって、 「それに女は心配ないけど、男には可愛さのあまり襲われるかも知れないしね」 「……」  そう締め(くく)った。  呆れてものが言えないとはまさにこのことだ。それなのに呆気に取られている俺をよそに、結木さんは声が出ないぐらいに(もだ)えていたりする。いわゆるマックスに(たぎ)った状態で。  顔のにやけを必死で抑えるように片手で顔を覆って(うつむ)いた姿勢を取り、真っ赤な顔でドンドンと地面を叩く、ベタな動作の結木さん。  確かに今の女よりも男の方が心配の(くだり)は、ベーコンレタスなシチュエーションならかなりクる。だけどいざ自分の身に降り懸かってみれば、ただただ呆れるばかりだ。  結木さんとは教室で話すことがなくなって、萌え話はもっぱらラインかメールでやり取りしている。立派なメル友になった俺たちは、いろんな腐情報を交換していたりする。結木さんは俺とは違ってリアル(三次元)も美味しく頂ける口だから、さっきからフラグが立ちっ放しなんだろう。 「それにさ。結木が泉といると二人は付き合ってるって思われて、泉に悪い虫がつかないわけだし」  壱人は焼きそばパンの半分くらいを一口で食いちぎり、 「いっそのこと、二人、付き合っちゃえば?」  口をもごもごさせながら、そんな馬鹿なことまで言い出した。 「……壱人?」  壱人のおバカっぷりは今に始まったわけじゃない。それなりに慣れてはいるけど、言うに事欠いて付き合えはないだろうが。怒りにぷるぷる震える俺をよそに、 「そうね。それは名案かも」  結木さんも冷静というより、呑気(のんき)にそんないい加減なことを言って来る。  頭上を横切ったカラスがまるで漫画の一場面のように『カァ』と鳴いた。これって、聞く人によっては『アホゥ』と聞こえるあれだ。  怒りにぷるぷる震えてるくせに、呑気にそんなことを考える俺も案外、二人と同類なのかも知れない。

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