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思わずごめんなさいと平謝りしそうになったけど、なんとか堪 えた。俺、いま女装してるんだっけ。
見た目は、完璧な女の子なんだから大丈夫なはずだ。恐る恐る振り向いてみると、満面な笑みを浮かべたお姉さんと目が合った。
「それ、試着してみる?」
「へ?」
「大丈夫。胸は作ればできるものなのよー」
「え、あ。ちょっ……」
がっしりと俺の腕を引き、試着室へ引きずり込もうとする綺麗な店員さん。
「こうね。脇腹やお腹から余ったお肉をブラの中に掻 き集めてねー」
お、お姉さん。そんな思春期ボーイの夢が壊れるような裏技(谷間メイク)のレクチャーはいりませんから!
女の子の胸ってそうだったんだとショックに浸る暇もないほどの急展開に、結木さんに視線で救いを求めてみる。
……ってか結木さん、肩を震わせて笑ってるし!
俺が試着なんかできるわけないじゃん!
そう言いたいところだけど声に出したら男だってばれてしまうし、なんとか作り笑顔で逃げ出したらそんな俺を見て小悪魔な結木さんはぶはっと吹き出した。
「帰るっ!」
「あ、うそ。ごめんごめん」
耐え切れずに逃げ帰ろうとしたら、必死に引き止められたのだった。
結局そんなやり取りで余計に目立ってしまったらしく、お店にいる他の子たちもクスクス笑っている。どうやら店員のお姉さんにはいたく気に入られてしまったようで、結局はお姉さんお勧めの胸の谷間ができるブラとお揃いのショーツのセットを買ってしまった。
ってか、どうする俺?!
ブラは胸を作るために不本意ながらも必須だったりするんだけど、下は別に必要ないし。けど、
「泉ちゃん。買っちゃったねー」
そう言う結木さんの目の不必要なまでの煌 めきは明らかに腐女子のそれで。上下セットでしかもお姉さんに乗せられて二つも買ってしまったことは壱人に内緒にしとこうって思うけど、結木さんが黙っていられるとは思わないし、そこは諦めるしかないかな。
「へへー。いっぱい買っちゃった」
結局は戦利品(買った物)の報告をした結木さんに、俺が自分で買ったものまで壱人に報告されてしまった。
結木さんいわくのメインイベントが終わり、結局は女装コスプレ用の洋服も何着か買ってしまった。二人分の荷物を抱えながらもイケメン壱人の顔は、始終ニヤニヤと意味ありげににやついている。
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