73 / 138

12

浮ついた心  結局は夏休み初日もいつもと同じように、殆ど泉と口をきかないまま終わってしまった。ただ、久しぶりに学校で同じ時間を共有したんだと思うと、それだけで悪戯(いたずら)に心が騒ぐ。  小学生の頃の大半はクラスメートとしても泉と一緒にいたのに、中学校に上がってから今までは一度も同じクラスになったことはない。好きな子と同じクラスで喜ぶなんてガキじゃあるまいし。表向きはそう嘘ぶきながら、本心では泉と同じ空間にいられることが(たま)らなく嬉しかった。  翌日。夏休みの二日目は昨日の雨が嘘のように晴れ上がり、雲一つない真夏の空が広がっている。昨夜は突然結木が家にやって来て、一通りの恋愛ごっこをして帰って行った。  閉め切ったカーテンの向こう側に、泉を感じながらセックスする。そんな状況に倒錯(とうさく)して、まるでカーテンの向こう側に彼女がいるのに浮気をしているようで異常に興奮した。  夜勤のお袋は留守、親父は仕事中。壁一枚(へだ)てた向こう側に親父がいるという状態より、泉の存在が性的な欲情を(あお)るだなんてどうかしている。  そもそも泉の身代わりに女を抱く時点で倒錯的な状態には違いないが、それにしてもいろいろと終わっている。想いと行動が見事に反比例している状況では、それもきっと仕方のないことなんだろう。 「おはよ」  夏休み二日目。補習二日目も結木が迎えに来て、一緒に登校した。 「壱人、どうかした?」 「あ。いや」  今日は登校時間をずらしたのか、泉の姿が見えない。いつの間にか泉の姿を探している自分に苦笑った。  そのまま今日も時間ぎりぎりに教室へ入ると、泉は橋本と笑いながら雑談していだ。何故かいつもよりもあからさまに顔を背けられて胸が痛んだが、素知(そし)らぬ顔で昨日と同じ席に着く。  昨日、泉に貸した折り畳み傘。俺のじゃないけど。その傘を返すために泉が話し掛けてくるのを期待していたが、ついぞ泉に話し掛けられることはなかった。

ともだちにシェアしよう!