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「――っっ」  俺、やっぱり馬鹿みたいだ。いや、みたいじゃなく本当の馬鹿か。まあ、それはとっくの昔に自覚していることだけど。泉を想うあまりに泉を遠ざけて、結果、泉とは普通の友達でさえいられなくなった。  ただ、幼なじみと言う称号だけは、生涯消えることはない。子供の頃に(つちか)った思い出が消えることもないだろう。それでも俺にあるものは今や思い出だけで、この手に新しいものは何も残らない。泉に触りたいだとか、泉にキスしたいだとか。そんな余計な欲を出さなければよかった。泉がそばにいて笑ってくれるだけで、ただそれだけで良かったのに。  その日の夜。ベッドに仰向き、窓の向こうを眺めた。閉め切ったカーテンの向こう側にいる泉のことをただ想いながら。立ち上がって何日かぶりに自室のカーテンを開けてみるが、ガラス越しに見えるものは泉の部屋の青いカーテンだけだ。  この窓の下。お互いの(ひさし)(また)いで泉の部屋へと行き来していたのは、もう随分と前のこと。あの頃と同じ、泉のことを親友として好きなままなら今も堂々と好きな時間に会いに行けたのに。  この隔たり、俺の部屋と泉の部屋の間に立ちはだかる壁がとてつもなく高い。邪な気持ちに気付いた以上、普通ではいられない。泉と二人切りになると自分を抑え切れそうになく、きっと俺は暴走してしまう。  窓を開ければ手が届きそうな距離なのに。庇を跨げば数歩と掛からない距離なのに、その数歩が今はとてつもなく遠かった。部屋の明かりがついているということは、カーテンの向こう側には泉がいるのに。  窓を開け、 「……泉」  思わず名前を呼んだ。ここ何日も独り言と結木を抱く時にしか口にしたことのない、その名前を。その声はカーテンの向こう側には届くはずもなく、俺は窓を閉めて自室のカーテンを引く。  泉に対する邪まな想いは思春期の俺の心に衝撃を与え、その衝撃は泉を自分から遠ざけるには十分だった。自慰を覚えたばかりの頃は毎晩泉を想い、その行為に(ふけ)った。  その翌日は特に泉の顔を見られなかった。自分が泉を想う気持ちが恋心だと気付く前に、その行為に至ったのだから尚更だ。  それが本格的に泉を避け始めた中学に上がったばかりの頃で、初めて彼女が出来た中二の頃には今の状態が出来上がっていた。

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