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自分から泉を遠ざけておいて、不甲斐ない自分に苦笑う。思えばもう5年もこんな状態だったんだ。なら、こんなに気に病むことはないのに。なのに、
『泉』
泉の名前を呼ぶ橋本の声が耳から離れない。その声の波紋が鼓膜に刻まれでもしたのか、どうにも耳について離れない。橋本が泉を単なる友達としか思っていないことは、橋本の目を見ればわかる。それは泉が橋本を見る時も同じことで、少し仰向いて笑うその表情にも恋愛感情は全く見られない。
なのに泉に笑顔を向けられているというだけで、俺は橋本に嫉妬した。この際、泉を想う気持ちはどうでもいいからとにかく泉のそばにいたい衝動に駆られる。
「……っは、」
そんな想いとは裏腹に、無意識に股間に手が伸びていた。独りよがりな行為はかなり久しぶりだ。
「……っっ、泉っ」
名前を呼びながら耽る擬似行為に溺れながら、堂々巡りの思いを遮断する。報 われない想いを持て余した俺は、その想いの扱いに戸惑った。宙ぶらりんの想いは時に自分だけじゃなく、泉をも傷付けることになるとは知らずに。
「――――っっ」
独りよがりで息苦しい夜が静かに更けて行った。
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