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 それから何日かは地獄のような日々が続いた。地獄との例えは(いささ)か大袈裟だが、針の(むしろ)に座らされた心地がしたのだから似たようなものだ。 『泉』  当たり前のように自分のことを名前で呼ぶ橋本に、泉は笑顔で応える。その笑顔は友情で結ばれた二人の間でのことだと分かっているのに、それでも嫉妬で胸が痛かった。  いつものように通学して、泉と橋本の目の前の席に座る。こうやってわざと二人の目につくようにすることは、もはや意地のようなものだ。  こうでもしないと泉の視界に入らないことが悲しかったが、これも自業自得なんだからしょうがない。そうちゃんと自覚していてもやめられそうになかった。  今日も橋本は一時限だけ補習を受けて、部活へと向かっく。その後、何か言いたそうな顔をしている泉が気になったけれど、気にしないそぶりを決め込んだ。  浮ついた心を覚られないように、必要以上に結木には優しくした。そんな俺を結木はどう思っているのだろう。後になって気づくことだが、結木はこの頃には、俺の本心に気づていたのかも知れない。  その日は久しぶりにぐずついた天気で、泉があの傘を返す名目で話し掛けてくることを期待したのだが。結局、泉はいつものビニール傘を持って登校していて、傘を返しに来る気配も見られない。  本当に何をしているんだ俺は。何がしたいんだ。  全ての補習授業が終わった放課後、いつものように自問していたら、 「泉ー!」  窓の外、階下から泉を呼ぶ馬鹿でかい声が聞こえた。  一瞬、胸が跳ねた。野球の練習は終わったのだろう。階下から橋本が窓を閉めようとしていた泉を呼び止め、泉は窓から身を乗り出して階下の橋本と話し始める。 『――――』 「うん」 『――――』  橋本の声は聞こえないが、おそらくは一緒に帰ろうとでも泉を誘っているんだろう。何度も相槌を打ち、 「おお。待っ……」 (――バンッ!)  泉が口を開いた瞬間に、俺は机を思い切り叩いて席を立ったのだった。

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