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 いたたまれなかった。とにかくその場にいたくはなかった。 「……帰るぞ」 「壱人、どうしたの?」  ポカンとした表情でこちらを見てくる泉のことが気にならないではないが、今はその顔も見たくない、と言うか見られそうにない。  嫉妬に狂いそうになる心をなんとか抑えて、俺は無表情を装って教室を出た。 「ねえ、壱人ってば」 「悪い。バス停まで送る」  結木には悪いが、このままだと結木に八つ当たりしてしまいそうだ。必死に着いて来ようとする腕を強く引き、バス停へと急ぐ。途中の廊下でユニフォーム姿の橋本と擦れ違い、思わず睨み付けてしまった。  橋本は悪くないと分かってはいても、沸き上がる嫉妬と衝動に(はらわた)が煮え繰り返る。俺のこの邪な気持ちを知らない橋本は一瞬驚いた顔をして、こちらをちら見しながら行き過ぎて行った。  悪いが、俺が欲しいスタンスはそこじゃない。橋本がいるそこじゃ泉を抱けない。思い切り甘やかして、時には快楽に泣かせてやりたい。そろそろ我慢の限界に立たされて、どうにかなってしまいそうだ。 「ごめん。また電話する」 「うん。気をつけてね」  頭上に激しい雨音を聞きながら、結木をバスに押し込んだ。結木の言う気をつけては、激しい雨に路面がやられて足場が悪くなっているからだろう。ぬかるみに足を取られながら、俺は帰路を急いだ。  泉のことを泉と呼んでいいのは俺だけだ。ぱっと出の友達風情に呼ばせてたまるか。俺と泉とは年期が違う。伊達に10年も幼なじみでいたわけじゃない。それを打ち壊したいくせに打ち壊せなくて、妙な立ち位置に留まってしまっているけど。  微かな雷鳴を遠くに聞きながら足早に家へと向かう。降り出した雨は激しさを増し、 「――ちっ」  嵐の予感に舌打ちを一つ。帰り着いて早々にベッドに仰向いて倒れ込むと、言いようのない嫌悪感に(さいな)まれた。

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