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 幼なじみだから。そばにいるのが当たり前だから、当たり前に泉のことを好きになった。だけど、同性だからってその気持ちを抑えて来たけど、そんなのもうどうでもいい。  どれくらいそうやってうだうだと考えていたのか、気付けば俺の部屋は闇に沈んでいた。久しぶりにカーテンを開けて窓の外を見れば雨はすっかり止んでいて、満天の星とまでは言えないが夜空にはいくつかの星も見える。  泉の部屋を見ると電気が着いていた。携帯電話で確認した時間的に考えると、泉は夕食が終わって部屋に戻ったのだろうと推測出来る。 『泉ー』  不意に、学校での窓の下の橋本と泉との一連のやり取りを思い出した。身を乗り出して橋本に笑いかける泉の笑顔も。  それまでも何回か橋本は泉のことを下の名前で呼んではいたが、あの時は特別その場にいたくはなかった。どうしてなのかを考えてみると、ある一つの答えに辿り着く。 「……ああ、くそっ」  堂々巡りのこの感情は、一言で言ってしまえば単なる嫉妬だ。泉のことも意識して視界に入れないようにして来たから、本当のところは橋本に向けていただろう笑顔も実際には見てはいない。このまま行くと、泉の笑顔を忘れてしまいそうだ。泉って、どんな顔で笑っていたっけ。  最近、俺の視界に入って来る泉は結木の傘を渡した時のような今にも泣きそうな顔ばかりで、泉の本当の笑顔をもう随分と長い間見ていない気がする。そうさせているのは自分だとの自覚もあるが、そう思ったら泉の顔が見たくて仕方なくなった。  もう長いこと施錠したままだった鍵を外し、カーテンと窓を開け、窓枠を越えて俺ん家の庇に足を掛ける。雨で滑りそうな足元に気を配りながら、慎重に庇を辿って泉の部屋を目指す。  子供の頃はちょっとした冒険のように思っていたのに、今、実際に渡ってみれば数歩で泉の部屋に着いてしまった。泉の部屋を前に、軽く深呼吸してから窓枠に手を掛ける。  どうやら泉は窓に鍵をかけてはいなかったようで、簡単にそれは開いてしまった。

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