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「あー、えと。そのな。ちょっと妹に頼まれちまってさ」
「あ、えと。俺もその、姉ちゃんに……」
なんと言うか、あれだ。この場合の『姉妹に頼まれた』のくだりは、腐男子だとバレないようにとの言い訳の場合が多い。それは俺にも言えることで、このぎくしゃくした会話の後に二人とも一瞬、口をつぐんで、それから、
「は、はは」
どちらからともなく渇いた声を上げて笑った。
思えば初めて一緒に遊んだ時から、なんとなくそんな予感って言うか、そうだろうなって節 はあったんだよな。
「A子先生の本ってさ。発売日にすぐ売切れちゃうじゃん? 俺って結構、目立つから即売会にも行けないしさ」
あれから俺たちは場所を変え、近所のファストフード店に落ち着いた。向かい合わせでハンバーガーに噛り付く男は読者モデルもやっているイケメンで、近くの席の女子高生がこちらをちらちら見ながらこそこそやっている。
「米倉はコミケとかのイベントにも行っちゃう人?」
「え、と。実は姉ちゃんがオタクな腐女子で、昔からちょこちょこ駆り出されててさ」
「うそっ。マジで?!」
思わず大声を出してしまったイケメンは慌てて声をひそめて、心羨 ましげに『いいなあ』と感嘆の溜め息をついた。
ハンバーガーからはみ出したケチャップを口の端につけ、ズズっとバニラシェイクを啜 る様も絵になってしまう男。そんな水上はさっき買ったばかりのブツを膝の上に広げ、下を向いてこそこそやっている。
「つか、いいのか。これ。譲ってもらって」
「あ、うん。もしあそこで買えなかったら、姉ちゃんか結木さんに頼むし」
「ああ、やっぱり結木はそうか。カラオケで男の娘物語の主題歌なんか歌ってたもんな」
男の娘物語は深夜に放送しているアニメ番組で、そのものずばりな表現はないものの、ベーコンレタス要素が満載のストーリーになっている。ちなみにあの日、結木さんが歌った歌のほとんどがそんな感じで、思えば曲のイントロが流れるたびに水上はぴくりと反応していた。
水上は何度かマリモ仕様のズラをかぶって牛乳瓶底の伊達眼鏡を掛け、所謂オタクファッションに身を包んでイベント会場まで行ったことがあるんだそうだ。
だけどその変装はすぐにばれてしまい、おまけにファンの子たちに囲まれ、泣く泣く諦めたことがあるらしい。ちなみに妹がいると言うのは真っ赤な嘘で、三人兄弟の三男なんだそうだ。
水上がまだ中学生の頃。元カノの部屋に遊びに行った時のこと。自分のエロ本を隠してある場所と同じ場所で、ベーコンレタスな同人誌を見つけたのがきっかけらしかった。
んで、彼女が席を外している間に興味本位でそれを読み、瞬時にはまってしまった、と。
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