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「米倉、おまえ大丈夫か?」 「え。な、なにが?」  だからそんな日の翌日は、こんなことになってしまったりする。 「なにってその声。それに寝不足っぽいしさ」  風邪でもひいたんじゃねえのと真剣に心配してくれる橋本には悪いけど、身体的には至って健康だ。 「いや、大丈夫。その、昨日は遅くまでゲームをやっててさ」  体を使ったスポーツゲームで腰をちょっとやっちゃって……、と適当にごまかしたつもりなのに、どうやら結木さんには筒抜けみたいで彼女は下を向いてひそかに悶えていた。  結局、昨日のアレがやっぱり響いたみたいで、体育の授業は見学してしまった。昼休みの屋上では結木さんもいるのに壱人のバカは盛ってくるし、言い方によっちゃ今日も平和な一日だ。  廊下で水上と擦れ違った時に照れ臭いというかなんかむず痒い感じがしたのは、二人で秘密を共有しているからなんだろう。軽く挨拶はしたけど。  初めて腐男子の友達ができたと言っても俺の日常は変わりなくて、そのことに俺は心から満足していた。  その時、 「あ」  ズボンのポケットに入れてあった携帯が震えた。 「どうした?」  その場は適当にごまかして、一人になった時にこっそりそれを確認してみる。  LINEじゃなくてメール着信が一件。メールの件名は『初メール』で、相手は思った通り水上だった。そのメッセージは恐らくは長文で、水上がLINEじゃなくてメールにした理由を察知する。  クラスメイトの佐藤の名前で登録してあるのは、万が一にも壱人に携帯をちら見された時のことを想定しての苦肉の策だ。壱人が勝手に見ることがないのは分かってるけど、相手が水上となったら別だ。  壱人は俺と水上が特殊な趣味を同じくして仲良くなったことを知らないし、水上からのメールの内容を考えると壱人には絶対に見せたくなかった。  周りに誰もいないのを確認してから、こっそりメールフォルダーを開く。水上は橋本ほどじゃないけどそれなりに絵文字も使うようで、それは、オタク御用達のアスキーアートを駆使した顔文字やらクールなデコメ素材を使った賑やかで、ちょっとシュールな内容だった。  その辺りは読モでイケメンな一面と、オタクで腐男子な一面との二面性を合わせ持つ水上らしいと思う。案の定、内容は見られたくないと言うよりは壱人が見てもさっぱり訳が分からないであろうもので、ベーコンレタス用語が飛び交うそれには、本文の最後にお勧めサイトのURLが添えられている。 「あれ。これって……」  そのURLには覚えがあった。 ※このお話は2010年から2011年に連載していたお話のため、内容が当時のオタク仕様になっています。現代に通じるようにある程度は書き直しましたが、これが限界なので笑って見逃して頂ければ。

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