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【第6話】可愛いって言うな!
フツメン男子の憂鬱
「メール送信……、っと」
秋も深まり、食欲に性欲(?)、読書の秋(中間テスト)が終わり。俺たちが通う南高校には、もうすぐスポーツと芸術の秋がやって来る。4時限目終了のチャイムが鳴り始めた瞬間に長文のメッセージを打ち込んで、鳴り終わると同時にそのメールを送信した。
送った相手は言わずと知れた、読モもやってるイケメン、水上譲 だ。壱人のクラスメートで、壱人の親友の一人。そして、実は水上は俺が初めて見つけた腐男子仲間であり、頻繁にメールやLINEをやり取りする仲でもあったりする。
水上とは表向きは廊下で擦れ違ったら軽く挨拶するだけの仲なんだけど、実はベーコンレタスな話題で盛り上がる仲でもあるんだよな。そうなったら顔を突き合わせての密談になるし、それはさすがにできないって理由で水上とは頻繁に連絡を取り合うようになった。
俺は水上と仲がいいのを壱人に知られたらまずいというのがあるし、それ以前に俺たちの趣味が周囲にばれたらまずいなんてものじゃなく、身の破滅だ。
「なに。佐藤くんにメール?」
唯一、その俺たちの複雑な事情を知る人物が、先生が出て行ったすぐに俺の席にやって来た。
彼女、結木さんは学校一といっていいほどの美少女で、その実、俺と水上と同じ趣味を持っている。結木さんはいわゆる腐女子ってやつで、水上が腐女子と偽って通ってるサイトが彼女のサイトだと知らずに彼女とコンタクトをはかり、結果的にお互いの正体を知ることになったいきさつがある。
「まさか佐藤くんが腐男子とはねえ」
「ちょ、結木さん!」
結木さんは冗談よとケラケラ笑い、俺たちのとばっちりを受けた佐藤は購買にでも行くのか、おもむろに席を立つと教室から出て行った。
ここでクラスメートの佐藤の名前が挙がったのは、俺が水上のデータを佐藤の名前で携帯に登録してあるからだ。こうすると水上からのメールやLINE、電話の着信、送信先なんかの名前欄には『佐藤健太』と表示されることになる。
それは万が一にでも壱人に画面をちら見された時にごまかすためなんだけど、それを知った茶目っ気のある結木さんはこんなふうにからかってくる。
「ごめんごめん。泉ちんが可愛いからつい、ね」
結木さんは18歳未満なのに18禁サイトを運営している秘密を水上や俺に握られたからか、なんやかんやで俺と水上が腐男子であることも秘密にしてくれている。
「可愛いとか言うな」
まあ、結木さん自身も世間的には腐女子と知られたらまずいというのもあるだろうし。そんなこんなで俺と結木さんの間では『佐藤=水上』で、俺たちのなかでは佐藤は水上の隠語のようになっていたりする。
※今でこそ腐男子はそれなりに理解されていますが、10年前はいても隠していたのか、腐男子を公表している人は殆どいませんでした。
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