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 それから結木さんは二、三度辺りを見回して、 「それより橋本、見なかった?」 「橋本? いねえの?」 「さては逃げたな。ごめん、泉ちん。今日は屋上パスね」  そう言うと、慌ただしく教室を出ていった。多分、食堂か購買に行っているであろう橋本を追ったんだろう。橋本はいつも食堂で昼飯を食べるか購買でパンを買って、野球の昼練をするためにグラウンドに向かっている。  橋本と結木さんは犬猿の仲のような間柄で、それがここ最近、二人の距離がぐっと縮まった。相変わらずギャンギャン口喧嘩ばかりしているけど、なんやかんやでよく一緒にいるところを見掛ける。  いつの間にか結木さんは橋本のことを気安く苗字で呼び捨てにしてるし。彼女は俺のことは別にして、今じゃ壱人のことも他の男子と同じように『新見くん』って苗字に『くん』付けで呼んでいるのに。 「おっと。こんな時間か」  二人が一緒にいるのは学園祭の打ち合わせっていう名目上ではあるけど、俺としてはなんと言うか、ほほ笑ましいと言うか。俺は表向きには無関心を装いながらも、心の中では二人がうまくいくことを願っていた。  教室を飛び出し、半ば駆け出すように一路、屋上を目指す。もうすぐ南校に、年に一度のお祭り日がやって来る。 「やばっ。もう壱人、屋上にいるかな」  間近に迫った学園祭で、俺たちのクラスの出し物はお化け屋敷に決まった。橋本はお化け役のドラキュラ伯爵を。そして、結木さんがそのヘアメイク及びスタイリングを担当することに決まっている。  それがきっかけになって二人の距離が近づいて、よく一緒にいるようになった。一部の詮索(せんさく)好きなクラスの女子の間では、二人は両思いじゃないかなんて言われていたり。  校舎の階段を駆け上がり、最上階の踊り場にあるドアを開ける。 「遅い」 「ごめんごめん」 「よ」 「え」  ドアの向こうの屋上には、少し不機嫌な壱人と一緒に思い掛けないやつらがいた。  いや、四六時中、壱人と一緒にいるやつらだから思い掛けないこともないけが、ここに来たのは初めてじゃないだろうか。 「あ、ども」  一人はビジュアル系バンドのボーカリストの村上で、もう一人はさっき俺が長文メッセージを送った相手だ。 「あ」  そいつ、水上が壱人の後ろで向こうを向いて何かごそごそやってると思ったら、ポケットに入れてある俺の携帯が鳴りだした。

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