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「見る?」
恐る恐る目を開けて、手渡された小さな鏡を覗き込む。
「うおっ?!」
完成したそのメイクに俺は、不覚にもそんな奇声を上げていた。
「……俺?」
「そうだよ?」
満足げに笑うゆのりんのメイクは、今まで俺がしてきたどのメイクとも違っていた。姉ちゃんが施してくれたそれでもなく、結木さんに伝授されたそれでもない。勿論、自分で化粧したそれでもない。
「……俺、米倉でもいけるかも」
「?!」
ちょ、なんて恐ろしいことを言うんだよ!
クラスメートのそんな一言に心の中でツッコミを入れつつ、自分でもそんなことを一瞬、思ったりなんかしたりして。リアルでこんなに可愛いのなら、自撮りなんかしたらどんな感じになるんだろうか。
「なあ、米倉。写真撮ってもいい?」
「絶対嫌だ」
その時、斜め上からカシャリとシャッター音がした。
「ちょ、山下さん!」
「我ながら自信作だからブログに上げちゃお」
「!!」
「いいよね?」
メイクしてくれたのは山下さんだし、俺にはきっと拒否権はない。結局、ビフォー、アフターのビフォーの画像や個人情報は載せない約束で、渋々それを許したのだった。
それにしても、化粧した俺は本当に我ながら可愛かった。アイラインや黒目が大きくなる灰色掛かったカラコンで小さな目はぱっちりお目々になってるし、そのメイクに蜂蜜色でパッツン前髪のツインテなウィッグも違和感がない。
どっちかと言えば現実よりも二次元寄りだけど、その非現実的な見た目が更に可愛いと錯覚させていた。少し垂れ目で黒目がち(どっちかと言うと灰色だけど)な瞳は二枚の付け睫毛で強調され、頬のてっぺんも濃いめのピンクのチークで強調されている。
唇は肌の色に少しだけピンクを足したような色で塗り潰され、少しだけ輪郭からはみ出るようにたっぷり塗られたグロスがエロ可愛さを演出している。まるでお伽話の主人公のようなそれは、不思議の国のアリスをテーマにしたんだそうだ。
女の子ってすごい。学校での山下さんはどちらかと言えばナチュラルメイクで、ブログにアップする時やコスプレイベントの時だけこのメイクをするらしい。
「もしかして……、もしかするかもな」
誰かが呟いたその一言に、その場にいた全員が思わず頷いたのだった。
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