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その後は散々、クラスメートに弄られてしまった。
「……米倉?」
「うそっ。泉ちん? 本物のお人形さんみたい!」
橋本は鳩が豆鉄砲を喰らったかのようにポカンと見つめてくるし、結木さんは二次元の住人のような俺が気に入ったようだった。てかさ。首から下は漏れなく俺だし。
ブレザーにネクタイの制服は、学園物のコスプレに見えなくもないけど。蜂蜜色のツインテなんてファンタジーな髪型も、男の娘に見えなくはないが異次元すぎて現実味がない。
肝心の衣装はメイド風のコスプレに決まり、衣装担当の女子に至っては、
「アリスと言えばエプロンドレスは外せないでしょ!」
なんて息巻いている。彼女はどうやらエロ可愛い見た目に反してオタクなコスプレイヤーらしく、衣装はレンタルじゃなく、彼女が手作りしている衣装の一つを貸してくれることになった。
「なんつーか……、っ?! ……いったぁっ!」
ぼんやりしていたからか、金づちで指をしこたま打ち付けてしまった。
「米倉、大丈夫?」
同じく大道具担当の佐藤は心配げに、そんな俺のことを気遣ってくれる。マジか。佐藤っていいやつじゃん。隠れ蓑 に使って悪かったかも。
メイクを落として本来の文化祭準備に戻った俺は、お化け屋敷の内装も大詰めを迎え、慣れない大工仕事に奮闘している。
「橋本。じっとして」
「おっ、おお」
橋本のコンテスト用のメイクと衣装担当も結木さんに決まり、橋本は坊主頭をシルクハットで隠した欧米貴族風のメイク(ドラキュラ伯爵を少し崩したようなもの)でかなりイケメン度が上がった。
壱人や水上はそのままでも勝負できるけど、いかんせん野球バカの橋本はそれなりの坊主頭で、それを隠して小技を駆使してようやく二人となんとか勝負できるぐらいの見た目(雰囲気?)になったようだった。
それぞれの衣装合わせは今週末で、来週はいよいよ南校祭が開催される。ミスター&ミスコン、裏コン(女装&男装コンテスト)を含む体育館でのパフォーマンスは一般には公開されないはずだけど、文化祭自体は一般に開放されている。
従姉妹で中学三年生の夏南 ちゃんが、絶対見に行くと息巻いていたっけ。まあ、夏南ちゃんのお目当ては壱人だろうけど。
「泉。今日、メイクしてみたんだって?」
その日の帰り道。俺のメイクに興味津々な壱人をなんとかはぐらかして、帰路を急ぐ。
衣装合わせにまた嫌な予感を感じながら、その夜は早々に眠りについた。
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