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第16話

出発してどれくらい経っただろうか? 体感では30分も経っていないと思うが、燦々と照りつける太陽のせいか、じっとりとした汗が肌を伝う。 前方にロワン、後方にアルド、俺は真ん中という陣形で断崖沿いをゆっくりと歩いていた。 額の汗を拭い、少し息を切らしながらロワンの後に続く。多くはない俺の体力を、照りつける太陽が容赦なく奪っていく。 「大丈夫ですか?もう少しですから…」 とロワンが指差す先には、断崖にポッカリと空いた穴。何だか見覚えのある感じ 息を切らしてどうにか穴の前まで行くと、たしかに先程の洞窟とは全然違っていた。 「奥を確認しますので、少しだけ待っていて下さい。…アルド、任せましたよ」 「ああ」 ロワンがそう言い残し、洞窟へと入って行った。 足元にビッシリと生える苔に、壁に張り付く蔦やよく分からない植物、天井からぶら下がる見た事のない植物な様なもの、そのどれもが何故か仄かに発光していて、あまりにも幻想的な光景に思わず目を奪われる 足元の苔は薄緑色に発光し、洞窟の奥へと進むロワンがその苔を踏む度に、光の粉のような物が舞い上がりとても綺麗だ。 壁に張り付く蔦は濃い緑色、蔦の部分だけ発光し、葉の部分は光らず、葉だけみれば普通の葉の様にも見える 壁にはその他にも、キノコのように肉厚で花の形をした物や、葡萄みたいな実を付けた果実、そのどれもが薄いオレンジ色に発光している。 天井は一面青。植物…でいいのだろうか?見た目はまるでクラゲの様で、そのクラゲの様な傘を持ったそれは、触腕の部分から葉や花が伸びていて、天井全体を優しい青で照らしていた。 その綺麗さに息を飲む 先程まで居た洞窟とは全く違う。 「トウヤ、大丈夫です。中へどうぞ」 洞窟内を確認し終えたロワンの声でハッと我に帰った。 光り輝く洞窟の中で立つロワンは一際輝いて見えて、今までで1番異世界感ある美しい光景だ 恐る恐る光る洞窟へと足を踏み入れると、光の粉が足下で舞う。光る苔はとてもふんわりしていて、まるで絨毯の様だ。 「すごく…綺麗だね」 「ふふ、そうでしょう。お気に入りの場所です」 「早くゆっくりしようぜ」 もっと奥へ、とロワンに言われそのまま足を進める。 少し歩くと突き当たりで、そこを右へ曲がると外の太陽の光が完全に届かなくなり、柔らかい光だけが洞窟を照らし、少し肩の力が抜けて行くのを感じる。 さらに奥へと進むと、円形の少し開けた場所に出た。この場所より先は、青く透き通った地底湖が広がっている。 さっきまで暑かったのが嘘みたいに涼しい、地底湖のおかげだろうか? アルドが徐に苔の上へと寝転がったのを見て、俺も光る苔の上へと腰を下ろした。 「後2時間もすれば、日が暮れますね…」 「…時間分かるの??」 「ええ、だいたいですが」 どうやら時間という概念もあるし、時間の数え方も俺が知っているものと変わりはないみたいだ。 ロワン曰く、遅めのお昼ご飯にと串肉を食べたのが3時頃で、今が5時前ぐらいらしい 街に行けば時計はあるし、持ち歩いてる人も居るが、ロワンは体感で分かると得意げに言った。 500年生きてるから分かるのだろうか?長年生きると逆に大雑把になりそうな気もするのだけれど… 「なァ、トーヤ、昨日の酒に合うやつ、あれもスキルで出した異世界のもんか?」 「そうだけど??」 「食いたい、くれ」 ガバッと起き上がったアルドが鋭い目付きで俺を見る。 いつかはこの時が来るとは思っていた。俺が思っていたより遅かったけど… 「どんな物ですか?私も気になります!」 アルドの横でロワンがワクワク顔で微笑む。 ロワンも欲しいと言うのなら…出してあげようかな メロンパンを美味しそうに食べてたロワンの顔を思い出し、思わず頬が緩んだ。 確か肉を狩に行ったアルドを待ってる時に、幾つか購入したはず アイテムボックスを開き手を突っ込んで、スルメスルメ…と探し出せば、手の中には掌サイズのスルメの姿干しが3枚入った袋 袋を破り、アルドに1枚、ロワンに1枚渡した 待ってましたと言わんばかりに、スルメに飛び付き、いつの間にか準備していたあの消毒液の様な酒を、まるで水の様に飲むアルド ロワンは手にしたスルメを奇妙な面持ちで見つめている。 「これは…?食べ物ですよね?」 「うん!海で生きるイカっていうのを干した食べ物だよ」 「??あのイカ?それがこんな姿に…」 なるほど、この世界メロンは無いけどイカはいるみたいだ。 どうやら海もあるみたい スルメを繁々と見ていたロワンが、恐る恐ると言った感じで齧り付いた もぐもぐ、と口を動かす度に徐々にロワンの頬が上がっていき、口を動かすスピードも上がっていく 「トウヤ!とっても美味しいですね。この歯応えと、噛む度に広がる旨味…」 うっとりとした顔でロワンが吐息を漏らした。 幻想的な洞窟の光と相俟ってか、ロワンの美しさが限界突破している… 美味しい、美味しいと、スルメを頬張るロワンを見ていると、せっかくだからもっと色々食べて欲しい…という気持ちが沸々と湧き上がってきた。 寝るにはまだ早いし、今俺に出来る事は特に無さそうだし、ついでに自分の腹ごしらえもしてしまおう!

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