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【SS】ボーダーラインの、向こう側
「はい、大丈夫です。......っていうか、大好き」
辛口のチキンカレーが好きだと僕は答えたつもりやったのに、一瞬のうちに翠さんの白い肌が赤く染まった。
......こんなんもう絶対に、僕の事好きやん。
これで気付かれてないと思てる辺り、ホンマに可愛いなって思う。
いつも年上風を吹かせたがるこの人はきっと、こんな風に僕が思とるなんて、全然気が付いてないはずだけれど。
「そっか。なら、良かった」
たぶん時間にしたら、数秒にも満たない沈黙。
平静を取り戻せたつもりかも知れんけど、まだ彼の耳たぶは赤いまま。
チラリと僕の方を盗み見ているつもりみたいやけど、バレバレやから。
あぁ、もう!やっぱり、可愛いなぁ。
じっと僕も彼の事を見つめていたから、視線がしっかりと絡まり合った。
「どうかした?翔真」
視線を鍋に戻して、何事も無かったかのように翠さんは聞いた。
......あかん、これは。
完全に素の自分が、顔を出しそうそうになった。
だから慌てて目をそらし、軽く深呼吸をした。
そして次の瞬間にはもう、穏やかだといつも言われる笑みを浮かべ、静かな口調で告げた。
「......いえ、別に何も。
わぁ、めっちゃいい匂い!
翠さんの作る料理、ホントどれもすごく美味しいですよね」
スッと翠さんのすぐ横に立ち、レードルを彼の手から奪うと、そのまま軽く掬って見せつけるみたいに自身の口元へ運んだ。
その時ちょっとだけ指先が彼に触れたせいで、翠さんの体に緊張が走る。
あはは、ホンマに素直な人やな。
でも想いを告げるのも、押し倒すのもまだ早い。
焦って逃げられたら、元も子もないしな。
......少しずつ、でも確実に距離を詰めて、絶対に堕とさんと!
そして少しだけカレーを口に含み、大人びて見えるようにっこりと微笑んだ。
***
『ボーダーライン』翔真視点です。
既にこの時点で、翠はロックオンされていたというお話。
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