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01. ◆ボクらの昼休み
「あぁぁぁ!!」
とある街の、とある学園。
ひとつの教室から響き渡るのは、学園中に聞こえたんじゃないかというくらい大きな叫び声だった。
「てめぇ、トモ! 俺の唐揚げ取ったな!?」
「ごめんねぇ、ナオくん。ずっと手をつけないから食べないのかと思ってー」
教室の窓際の席に集まる三人の男子生徒。その中で一番小さな彼、ナオと呼ばれた男子。楠木素直《クスノキスナオ》お箸を握りしめて怒鳴り声を上げていた。
そんな素直に悪びれる様子もなくヘラヘラと笑って見せているのが小林斗望《コバヤシトモ》。
「普通、脂っこいものを最後にする?」
「俺は好きな物は最後に取っておくの!」
「じゃあ明日からは最初に食べるようにしなよ」
「てゆうか人のもの勝手に食うなよ!」
椅子から立ち上がり、怒りを露わにする素直。
ずっと二人の様子を傍観していたもう一人の男子が呆れてため息を吐き、彼の口にまだ手を付けていないサンドイッチを突っ込んで黙らせた。
「ナオ、落ち着け」
「んぐっ、んっ……うまい」
「おおー、さっすがリュウくん。扱い慣れていらっしゃる」
「トモ、お前もからかうなよ」
「はぁーい」
反省の色を全く見せない斗望に、彼は再びため息を吐いた。
金髪に碧眼。見るからに日本人とは異なる容姿を持つ彼、夏川竜《ナツカワリュウ》。
落ち着きを取り戻した素直は椅子に座り直し、残りのご飯を一気に食べ尽くした。
クラスの皆はその三人の見ながら、やれやれと言った表情でクスクスと笑みを零す。
いつもの光景。変わらない昼休みの様子。
これは、そんな彼らの物語だ。
「リュウくんはいつも落ち着いてるよね。怒ったりしないの?」
昼食を済まし、コーヒーを飲みながら斗望が聞いた。その問いに竜は頭を傾げる。
「……あまり、ないな」
「リュウはお前と違って、大人なんだよ!」
そう得意気に語る素直。そんな彼を他所に、斗望は竜に質問を続けた。
「リュウくんって本当に人が出来てるよね。頭も良いしカッコイイし、もう少しモテても良さそうなものだけどなぁ」
「興味ない」
「どっちかって言うと怖がられてるもんね、変な噂のせいで」
「いい迷惑だよな。リュウはメチャクチャ良い奴なのに」
ズズーっと音を立てて紙パックの牛乳を飲み干しながら、素直は眉間に皺を寄せてボヤくように言った。
その名の通り、感情が正直に顔に出やすい素直。それに対して竜はさっきからほとんど表情を崩さない。自分の話題であるにも関わらず、我関せずといった様子だ。
「リュウくんは本当にドライだね」
「周りの評価なんて当てにならないし、実害がなければどうでもいい」
「実害、ないこともなくない? 結果的に悪い噂も流れてたんだし」
「関係ない」
「ま、そうだよね。リュウくん、この前の小テストも満点だったし、先生からの評価は悪くないもんね」
「テストで満点とかどうやったら取れんだよ。マージで無理なんだけどー」
「そりゃあナオくんには無理だろうねぇ」
机の上で項垂れる素直に、斗望は声を上げて笑った。
笑われたことに腹を立てたのか、素直は勢いよく体を起こして再び声を荒らげた。
「お前だって成績悪いだろ!」
「俺はまだテストで一桁取ってないもーん」
「九点も十点も変わんねーよ!」
「待って、十点じゃなくて十二点だから。二点の差はデカいんだからね?」
小さな争いに竜は呆れて仲裁に入る気も起きなかった。
パックにストローを差し、お茶を飲みながら二人の様子を眺める。
たまには落ち着いて昼食を取ればいいのにと思いながらも、賑やかな二人を見るのは嫌いじゃない。竜はそう思いながら小さく笑みを零した。
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