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02. ◆ボクらと生徒会長

 昼休みが終わり、次の授業のために移動を始める。  満腹感と今日の暖かな気温のせいで眠気が襲い来る。素直はあくびをしながら教科書を手に持って教室を出た。 「ねみぃー」 「ナオ、ちゃんと目開けて歩け」 「勝手にまぶたが下がるんだよ」 「ナオくん、さっきから真っ直ぐ歩けてないよ」  フラフラする素直の腕を竜が掴んで引き連れていく。  次の授業が行なわれる理科室へと向かっていると、背後から誰かに声をかけられた。 「なーつかーわくん」 「げっ!?」  その声にいち早く反応したのは、さっきまでウトウトしていたはずの素直だった。  後ろを振り返り、そこにいる人物の顔を見るなり露骨に嫌そうな顔を浮かべる素直。  そんな彼を気にもせず、竜の名前を呼んだその人は三人へと近づいてきた。 「やぁ、移動教室かな?」 「相良会長……」  この彩戯学園高等部の生徒会長、相良司《サガラツカサ》。  子犬のように威嚇をする素直をスルーして、司は竜の前で足を止めた。 「そろそろ良い返事が欲しいな」 「……もうお断りしたはずですよ」 「気持ちが変わるのを待ってるんだよ」  自信満々を絵に書いたような笑顔を浮かべる司に、竜は呆れてため息を吐く。  入学してからずっと竜は司から生徒会に入らないかと勧誘をされていた。  この学園では会長自らが役員を選ぶのが昔からの仕来りらしく、あとは書記のポジションが空いているそうだ。 「いい加減にしろ! リュウは生徒会になんか入らないの!」 「おや、楠木くん。ゴメンね、小さくて見えなかったよ」 「はぁ!? ふざけんなよ、バかいちょー!」 「アハハ。初等部からずっと学年首席をキープしてるこの僕に向かって馬鹿なんていうのは君くらいだよ? 赤点常習犯の楠木素直くん」 「う、うるせぇ!!」  竜は激昂する素直の肩を掴み、落ち着くようにトントンと叩く。 「落ち着け、ナオ。会長と話してるのは俺だろ」 「で、でも!」 「お前に心配されなくても、俺は生徒会に入る気はないよ」 「おやぁ、またフラれちゃった?」 「何度来られても俺の気持ちは変わらないですよ。それと、ナオをからかうのはやめてください。なだめるのは俺なんですから」 「アハハ! 仕方ないな、今日は夏川くんに免じて引き下がるとしよう。でも、僕は諦めてないからね」  そう言って、司はヒラヒラと手を振りながら去っていった。  その背中を睨みつけながら、素直は子供のようにベーっと舌を出して彼への嫌悪を表した。 「なんだよ、アイツ! 偉そうに!」 「実際偉いでしょ。生徒会長だし。ナオくんとは頭の出来が違うんだよ」 「お前が言うな!」  素直はどうにも昔からの司のことが苦手らしく、竜を生徒会に勧誘するようになってから、その苦手意識にさらに拍車がかかった。  なんでそんなに嫌うのかと以前に斗望が聞いたことがあったが、本人にも理由は分からないそうだ。 「ナオくん、幼稚舎からこの学園にいるんだよね」 「そうだけど」 「相良会長も初等部からずっと生徒会やってるし、もっとこう尊敬とか憧れたりとかするものじゃないの?」 「無理。なんか嫌い」  即答する素直に斗望は苦笑する。  この彩戯学園はエスカレーター式で、幼稚舎から大学院、様々な研究施設がある学園都市だ。  素直は幼い頃からこの学園都市で育ち、施設内の学園寮で暮らしている。  竜は高等部から、斗望は中等部からの外部生。  一番この学園にいる素直は二人よりも司のことを長く見てきてるはずなのに、何故こんなにも毛嫌いしてるのか。竜と斗望は顔を見合せ、首を傾げた。 「まぁいいけどね。俺には関係ないし」 「リュウとトモは何とも思わないのかよ」 「俺は別に」 「俺も。むしろ、ずっと生徒会なんて面倒なことやってるなんて凄いじゃん」 「そうだけど、そうじゃないんだよ! なんか……なんか嫌なんだよ!」 「言っておくけど、そんな風に思ってるのはナオくんだけだよ」  素直は不満げな表情を浮かべたまま、理科室へと向かう二人の後ろを付いていった。  正直、竜も生徒会には全く興味がないので諦めてほしいと思っている。勧誘される理由も全くわからないし、司に聞いても答えない。  何より、今は三人で過ごす学園生活が最優先。  ふくれっ面の素直の頭にポンと手を乗せ、竜はそっと微笑んだ。 「リュウ……」  無言のまま何も言わない竜。  そんな彼の優しさに、素直はようやく眉間の皺を伸ばして、いつもの笑顔を浮かべた。 「へへっ。ありがとな、リュウ」 「別に」

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