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第1話

年越し蕎麦の用意をしてる要さんの背中に顔を埋める。 ふんわりと香る、花の蜜のような甘い匂いが心地好くて好きだ。 「わ、どうしたのー?」 「..手伝う。」 「ふふ、ありがとう。」 「ん。」 隣に並びエプロン姿を盗み見ると、ぱちりと目が合った。 恥ずかしくなり、慌てて完成した料理を盛り付けて運ぶ。 ふにゃりと笑った要さんはとても御機嫌のようで、デタラメな鼻歌を唄っている。 あっという間に準備を終え、二人でリビングに戻り向かい合って食卓に着いた。 「「いただきます。」」 手を合わせて、一口また一口と食べ進めていく。 「美味しい。」と言うと、要さんは嬉しそうに蕎麦を頬張った。 ちらりと時計に目を向けると、残り数十分で新しい年になろうとしていた。 「今年も、もう終わりですね。」 「早かったなぁ。」 「..ですね。有り難いことに、忙しくさせて頂きましたし。」 「そうだね。沢山の人に龍のバンドを知ってもらえて、僕まで嬉しくなっちゃった。」 屈託のない笑顔を向けられ、頬が熱帯びていくのを感じる。 「あはは、赤くなった。」と愉快そうに俺の頭を撫でた。 照れくささと嬉しさで、変な顔になっていないか心配だ。 「よし、年が明ける前に片付けちゃおうか。」 「あ、はい。」 手早く食器等を片付けて、ソファーに腰掛ける。 時刻はちょうど23時59分になったところ。 テレビ画面の向こう側は、カウントダウンを開始していた。 「僕たちもカウントダウンしようよ!」 「こういうの、好きですよね。」 「良いじゃんかー。しよう?」 「仕方ないですねー。」 呆れたフリして笑うと、「本当は龍もこういうの好きなくせに。」と要さんも笑った。 画面と睨めっこしながら、真剣にタイミングを見計らってる姿は、子供みたいで可愛らしい。 そんなことを考えているうちに5秒前になり、声を合わせてカウントを開始する。 ーーー5、4、3、2、1 ふと悪戯心が芽生え、0と同時に唇を重ねる。 顔を真っ赤にしながらパチパチと瞬きする様子が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。 「りゅ..っ!」 「ふはっ、あけましておめでとうございます。」 「ん、あけましておめでとうっ」 「..今年も、要さんと一緒に新年を迎えられて良かったです。」 突然ぼふっと胸に飛び込む要さんを抱き留めると、照れくさそうに肩口に顔を埋めていた。 「..狡いよ。」 「え?どうしたんですか。」 「幸せ者だなぁ、と思って。」 「そんなの俺も一緒ですよ。」 数秒後に我に返り赤面すると、「今日はよく顔が赤くなるね。」と要さんは笑った。 抱き締める力を強めて、誰のせいだという言葉を飲み込む。 暫くこうしていると、腕の中から穏やかな寝息が聞こえてきた。 このまま寝てしまいたい衝動を抑え、ベッドまで運んで隣に潜り込み毛布を掛ける。 「おやすみなさい。」 額にキスを落とし、温もりを感じながら眠りに就いた。

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