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第2話

家に辿り着いた頃には、虚ろな目をして力なく窓ガラスに寄り掛っていた。 吐き気は治まったようだけれど、相変わらず青白い顔をしている。 「陽輝、着いたよ。」 「..ん..」 「部屋までお姫様抱っこするからね?」 「..はっ..は..」 そっと腕をさするように声を掛けると、生返事が返ってきた。 身体がさっきより、更に熱くなっている。 抵抗なく抱き上げられた腕の中で、陽輝は辛そうに浅い呼吸を繰り返していた。 「寒くない?もう一枚毛布持ってこようか?」 「へ、いき..」 「そっか。とりあえず熱計ろう。はい、体温計。」 「..ぅ、ん..」 ベッドに寝かせ、包み込むようにして毛布を掛ける。 それから体温計を渡し陽輝が熱を測っている間に、タオルや冷えピタを用意しておく。 念のため洗面器も置いておいた方が良いだろう。 「鳴、った..」 「ちょっと貸して。」 「ん..」 「え、38.9℃..高いね..」 差し出された体温計を受け取り確認すると、予想以上の高熱で驚いてしまった。 インフルエンザが流行っていると聞いたから、朝になっても熱が下がらなそうであれば病院に連れていった方が良いかもしれない。 「お粥とゼリーとりんご。どれが良い?食欲ないかもしれないけど、何か食べないと薬飲めないからさ。」 「..り、んご..」 「食べやすいように、すりりんごにしようか。ちょっと待っててね。」 「ごめ、ん..な..」 申し訳なさそうに眉を顰める陽輝に微笑ってみせ、キッチンへ行き冷蔵庫からりんごを取り出す。 それを皮ごとすりおろしレンジで軽く温めてから、ほんの少し蜂蜜をかける。 むかし風邪を引いた時、よく母親がこれを作ってくれたのだ。 「起きれそう?」 「っん..」 「..おっと。大丈夫?」 「大丈、夫..っけほ..」 寝室に作ったすりりんごと薬を持っていき、ぐらつく身体を支えながら抱き起こす。 そのまま凭れ掛からせ、楽な姿勢で座らせた。 「おい、し..」 「良かった。もう少し食べられそう?」 「..食、べる。」 「無理しなくて良いからね。」 スプーンと皿を差し出すと、ゆっくりではあるものの、半分ほど食べてくれた。 食欲がないわけではないようで、ちょっとホッとした。 「着替える?汗で気持ち悪いでしょ。」 「..ん、着替えたい..」 「寝間着とタオル置いておくね。」 「..真尋も風呂、入ってきて良いよ。一人で平気、だから。」 ライヴと熱で掻いた汗のせいで身体が冷えないよう、落ち着いている今のうちに着替えさせた方が良いと思った。 心配だったけれど一人で平気だと言うので、食器を片付けて風呂に入ることにした。

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