4 / 4

第4話

提灯の明かりから離れた暗がりの中に、目的の場所を発見した。 思い違いかもしれないという気持ちが少なからずあった為、安心して溜め息が溢れる。 滑り台とブランコしかない想像よりもずっと小さな公園だったけれど、そのおかげで誰も居ないようだ。 「こんなところに公園なんてあったんだね。知らなかった!」 「随分前に見かけたような気がしただけだったから、ちゃんとあって良かったよ。」 ベンチに荷物を起き、ビニール袋の中身を全て取り出す。 実際にやったことがないから本当に大丈夫なのかは謎だけれど、どうやら袋に水を入れればバケツの代わりになるらしい。 そうすると捨てる作業も楽になって良いとネットに書いてあった。 さっきコンビニへ寄った時に、事前に調べておいたのだ。 「陽輝!乾杯しよ!」 「おお、早いな。ちょっと待ってて。先に水入れてくるから。」 「はーい。ありがとう!」 水道を探して辺りを見渡していると、既にビールの缶を掲げて準備万端の真尋に呼ばれた。 花火をするより、酒を呑む方が先だったか。 自由人な故に振り回されることもあるけれど、そういうところだって嫌いじゃない。 隣で笑って居てくれるのなら、出来る限り甘やかしてあげたいと思っている。 「お待たせ。はい、乾杯。」 「かんぱーい!」 急いで水を入れたビニール袋を持って水道から戻り、それを溢れないように地面に置きながらビールを手に取る。 すると待ってましたと言わんばかりに缶を差し出され、自分の缶をカツンと軽くぶつけて一口啜った。 真尋はというと、ゴクゴクと喉を鳴らしている。 暑いから余計に美味いのだろう、良い呑みっぷりだ。 「花火の準備出来たぞ。」 「やった!やろう!」 適当な位置にロウソクを設置し手招くと、すぐに此方へ駆け寄ってきた。 花火の入っている袋を破り、その上に見やすいように並べて置く。 正直どれをやってもほぼ同じなのではないかと思うのだけれど、隣で真尋が真剣に選んでいるから言わないでおこう。 「わ、綺麗ー!見て見て!」 「怪我すんなよ。」 火をつけると、色彩鮮やかな火花が散り始めた。 ぼんやりとそれを眺めているだけの俺とは対照的に、真尋は両手を広げてクルクルと回転している。 花が咲き乱れているように見えて綺麗だけれど、あの調子だとそのうち転ぶのではないだろうか。 「そうだ!飯も食おうよ!」 「..忙しないな。」 「えへへ。」 「ほら、どうぞ。」 暫くはしゃぎ回っていたかと思うと、唐突に腹が減ったと言い出した。 半分程やり終えて大分満足したのだろう。 荷物を隅に寄せてベンチに腰掛け、それぞれ酒や飯を手に取る。 美味しそうにあれこれ口に含む姿は、まるでリスやハムスターのようで面白い。 膨らむ頬を突っついてみると真尋は不思議そうに目を瞬かせ、爪楊枝に刺さった唐揚げを俺の口元へと運んでくる。 たまにはこういうのも良いな、そう思いながら差し出されるがままに齧り付いた。 「線香花火、しない?」 「え、ああ。良いよ。」 不意に目線が花火の方へ移ったかと思うと、おっとりと此方を向いて小さく首を傾げた。 その仕草がなんだか艶っぽくて、トクリと胸が高鳴る。 コロコロと変わる表情に、いつも翻弄されてばかりだ。 誤魔化すように頷き、微笑んで立ち上がった真尋の背中を追った。 「..ねえ、陽輝は今日ちゃんと楽しめた?人ごみ苦手なのに、付き合わせちゃってごめんね。」 「気にすんな。楽しかったよ、ありがとうな。」 テープで束ねられた線香花火を互いに一本ずつ抜き取り、しゃがみ込んでロウソクに近付けた。 パチパチと微かな音を立てて、火種が不安定に揺れる。 それを見つめながら、真尋は静かな呟きを漏らした。 そんなことを心配していたなんて想像もしていなくて、あまりの愛おしさに思わず笑みが溢れる。 すると、安心したように身を擦り寄せてきた。 「真尋の浴衣姿も見れたしな。」 「ふふ、やらしいこと考えてたんでしょー?」 「..そりゃ、まあ。」 俺も考えてた、と耳元で囁かれた甘く低い声にぞくりと身体の奥が震えた。 こういう時だけ、急に男らしくなるのは狡い。 熱を帯びた瞳に、鼓動が煩いくらいに速まる。 咄嗟に掴んだ腕から、それが伝わってしまいそうだ。 「帰ろっか。」 「..ん。」 迫りくる顔に瞼を伏せ、優しく唇が触れ合う。 それと同時に火種が落下してしまったけれど、そんなこと今はどうだって良い。 ーーーもっと欲しい。 強請ってしまいそうになるのを堪えながら、先に立ち上がって微笑む真尋に甘えるようにして両手を伸ばした。

ともだちにシェアしよう!