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第4話

ネットが駄目なら、彼と凛太朗が出会った店や、その周辺を手当たり次第、聞き込みをしながら歩いて回るしかなかった。 二人が別れてから時間が経ってしまっているし、今はこの辺に住んでいないかもしれない。 もしかしたら、そもそも此処が最寄りじゃない可能性だってある。 どうすれば良い、どうしたら見つけ出せるんだ。 どんどん症状は悪化していて、二ヶ月と少しが経つと、蔓はもう皮膚の上まで範囲を広げ、幾つもの葉をつけていた。 痛みがひどく血を吐いては、日に日に痩せ衰えていくばかり。 身体を起こすのもやっとで、まともに動けなくなりつつあったけれど、上着で蔓を隠して必死に情報を聞いて回り続けた。 それでも何も得ることが出来ないまま、もうそこまで限界が近付いてきているのを感じていた。 このまま終わってしまうのかな、そう諦め始めた頃だった、彼に会えたのは。 「おい、大丈夫か?」 「..は、い..っ、え..緒方、大智..さん..?」 「そうだけど..知り合いだっけ。」 「..ずっと、探して..いたん、です..」 聞き込みの最中、急に眩暈がして視界が歪み、道の隅に崩れるようにして膝をつく。 どうにか立ち上がろうとするも力が入らず、そのまま地面に座り込み、壁に凭れ掛かることしか出来なかった。 行き交う人々が、横目で此方を見ながら素通りしていく。 そんな中、一人の男性が心配そうに声を掛けてきた。 俯かせていた顔を少し上げそちらを見ると、そこには目線を合わせるようにしゃがむ緒方さんが居たのだ。 写真で見た姿よりも少し大人びているけれど、間違いないと思った。 突然のことに驚きながらも名前を確認すると、警戒したような表情で首を傾げる彼が呟いた。 ゆっくりと俺は壁から身体を離し、体勢を整える。 そしてやっと会えた喜びから、僅かに笑みを浮かべて応えた。 「..倉持 凛太朗を、覚えていますか..?」 「んー..?あー、なんかそんな奴いたわ。」 「そんな奴って..付き合っていたん、ですよね..?」 「まあ、一応?俺はセフレくらいにしか思ってなかったけど。それが何。」 ひとつ深呼吸をして心を落ち着かせると、凛太朗について聞いてみた。 すると少し考え込む素振りをしてから、彼はふっと思い出したような顔をして、急につまらなそうに応える。 とても恋人だったとは思えないような口振りに、困惑しながらも更に質問を重ねた。 まだ俺のことを警戒しているから、わざとそんな言い方をしたのかもしれない。 そう考えたけれど、彼から放たれた言葉はあまりに残酷で、そうじゃないと気付かされるには充分すぎた。 「..凛太朗は貴方を想い続けていました、ずっと。それが原因で花咲病という恋の病を患い..亡くなったんです。」 「うーわ、まじかよ。あいつ、そんなに俺のこと好きだったわけ?笑える。」 殴り付けたい気持ちを抑え、出来るだけ冷静な口調で話をする。 せめて少しでも罪悪感を植え付けられたら良いと思った。 だけど彼はというと、馬鹿にしたようにケラケラと嘲笑うだけ。 こんな奴のせいで凛太朗が死んだなんて信じたくない。 出会っていなければ、今も元気に生きていたかもしれないのに。 絶対に許さない、許せるはずがない、悔しくて堪らなかった。 「っ、ぐ..ぁ..」 怒りや哀しみが一気に溢れてきた途端、酷い頭痛に襲われ蹲った。 顔の左側まで蔓が這うように、じわじわと侵蝕していく。 それと一緒に右の眼球を内側から壊し、蔓が付き出してくる。 まだ蕾はないみたいだけれど、もうすぐにでも出来たって可笑しくはないだろう。 「..これが、花咲病です。俺は凛太朗の恋人でした。でも、貴方には勝てなかった。」 「お前が俺を探していたのは、恨んでるから?」 「いえ、違います。凛太朗が愛した貴方がどんな人だったのか知りたかったんです、死ぬ前に。でも、そうですね..今は恨んでいます。」 「そうだろうな。俺はあいつを愛してなかった。」 治まることのない痛みに耐えながら顔を上げると、彼は目を見開いて唖然としている。 これ以上何を言っても響かないと分かってはいるけれど、それでもこの人は全てを知らなくてはならないのだ。 荒い呼吸をどうにか整え、俺は再び口を開いた。 乱暴な話し方にならないように、心を落ち着かせて。 喋り始めると彼は驚いた表情を崩し、徐々に眉間に皺を寄せていく。 そして、憐れみを含んだ静かな声で疑問を投げ掛けてくる。 首を振ってそれに応えると俺は改めて理由をきちんと告げ、最後に誤魔化すことなく素直な気持ちを吐いた。 それを聞いた彼は冷たく笑うようにハッキリと、凛太朗に愛はなかったと言い切ったのだった。

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