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第10話

まるでスライドショーを見ているかのように、思い出達が色鮮やかに脳裏を駆け巡る。 それは柔らかな陽射しに包まれながら、微睡んでいるみたいに心地好くて。 きっとこれが走馬灯と呼ばれるものなんだろう。 懐かしさが胸一杯に広がり、微かに頬を緩ませた。 「..もう、や..り、残し..た..こと、は..ない、な..」 酸いも甘いも全部ひっくるめて、とても良い人生だったと思っている。 事故に遭って脚を失い、絶望に打ち拉がれ不幸を嘆いたりもした。 けれどそれも今となれば、朔に出逢うキッカケになったと感謝しているくらいで。 何事もなく平凡に過ごしていたら、存在さえも知らないままだった。 もしかすると画家になりたいとも考えず、父に憧れて美術教諭を目指していた可能性だってある。 それはそれでまた別の幸せがあったのかもしれないけれど、もしもの世界に興味はなかった。 「..さ..っ、ごほ..ひゅっ、げッほ..!」 愛しい名前を呼び終えるよりも先に酷く咳が出始めると、生暖かい液体が唇の端を伝った。 どうにか酸素を取り込もうとすればする程、呼吸困難に陥り息は苦しくなっていく。 陸に上げられた魚のようにビクリと身体が跳ねる度、全身を激しい痛みが走る。 不意にげっそりと痩せ細った蒼白い顔色をした自分の姿が、ガラス窓に映っているのが見えた。 ーーーそうだ、もう解放されても良いんだ。 次第に意識は曖昧になっていき、ぼんやりと視界が霞む。 「..っ、もう..い、いよ..」 ふと両親や友人達の哀しむ顔が浮かび、少しだけ申し訳ない気持ちになる。 死に逝かれることの辛さを誰よりも知っていたから。 どうか泣かないで、そっと心の中で呟く。 この瞬間の為だけに、ずっと俺は頑張ってきたんだ。 約束を交わしてから十九年、随分と長いこと待たせてしまった。 震える左手を胸元に持っていき、二つのリングを重ね合わせるようにしてネックレスのチェーンを握る。 そして僅かに声を絞り出すと、迎えに来てくれると信じてゆっくりと瞼を下ろした。

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