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第3話

正門の前に着き呼び鈴を鳴らしても反応はなく、もう眠ってしまっているのかもしれないとも考えた。 ただもし万が一倒れていたらという不安もあり、鍵を開けて裏口から敷地内へと入った。 帰宅時は見送ってくれることも多く正門から出ることがほとんどだけれど、出勤時は基本的に裏口を使用していた。 「え、月彦様!」 「..げほげほ、ッごほ..!」 玄関に向かって歩いていると、縁側に倒れ込み蹲る月彦様を見つけ、僕は慌てて駆け寄り声を掛けた。 ひどく蒼白い顔をしていて、とても苦しそうに何度も咳をしている。 「ちづ、る..」 「はい、僕です!千鶴です!大丈夫ですか!?」 蹲っている目の前にしゃがみ、楽になるよう願いながら背中をさすった。 手に伝わる体温は高く、熱があることが分かる。 不意に微かな声で名前を呼ばれ、それに答えると月彦様は安心したような表情を浮かべ、そのまま意識を失ってしまった。 「これ、は..」 よく見ると唇の端から血が伝っていて切ったのかと思い服の袖で拭いながら確認したけれど傷はなく、これが吐いたものだと気付いた。 口元を押さえていたのであろう掌にも、ベッタリと血がついている。 素人目に見ても、風邪じゃないことは明らかだった。 「..え。」 いつまでも此処に居ては冷えて更に悪化してしまうと思い縁側から家の中へ上がらせてもらうと、とにかく夜風が当たらないところへ移動しようと抱き上げた身体があんまり軽くて愕然とした。 細くなったと感じてはいたけれど、まさかここまで痩せてしまっていたとは。 ぐったりと僕に身を預け辛そうに表情を歪める姿に焦りはあっても、それ以上に早く暖かな場所で休んで欲しい気持ちの方が強く、急いで寝室へと向かった。 「..早く元気になって下さい。」 既に敷いてあった布団の上に、そっと月彦様を降ろして毛布を掛ける。 せめて目覚めるまでは側に居たくて、僕は隣に座った。

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