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感度が良いのも問題ですね_1
天は二物を与えずって言う言葉があるが、あれは多分嘘だ。
「おい蓮沼、午後会議で使う資料――」
「ああ、それなら印刷してデスクに置いておきましたよ。ほら、その右手側です」
「それじゃ今日締めの新規在庫管理プログラムは?」
「昨日のうちに提出済みです。それから明日締めのプログラムも一本書いたので確認お願いします」
「あ、ああ……」
それを証明する人間がここに…………。
「先輩、さっき部長が呼んでいましたよ?」
「へ?……ああ!やっべぇ、すっかり忘れてた!これ今日中に提出だった!」
と慌ててファイルを手に部長の元へと走る。
くそっ……何だってアイツはあんな余裕綽々なんだ!
いつもいつも仕事は先回りするし、何気なく俺の仕事のサポートまでこなしやがって……。
心の中で悪態をついても何にもならないと分かっていながら、それでもムカつくものはムカつく。
部長室は同じフロアにある。
ドアの前で一呼吸整えてノックをすると中から“どうぞ”と声がして、俺はそれをゆっくりと開いた。
「失礼します」
一礼して踏み込んだ先には大きなデスクが置いてあり、そこには当然のことながら部長が腰掛けている。
部長、と言っても歳はまだ若い。
彼――宮下 恭一 はその腕を買われ、三十二の若さでこの部長の座を手にした。
俺と三つしか変わらないってのに偉い違いだよな……。
「部長、これ頼まれていた資料です」
手にしていたファイルを受け渡すと、部長は空かさずそれに目を通す。
「うん、問題なさそうだね。ありがとう」
朗らかな笑みは部下からも上司からも評判がいい。
まあ、人に好かれやすいタイプの人間だ。
ただ………。
「いえ、では俺はこれで……」
「ああ、ちょっと待って」
踵を返した俺だったが腕を取られ、足を進めることは出来なかった。
「せっかくだし、お昼でも一緒にどうかな?」
にっこりと微笑まれ、俺は頬を引き吊らせる。
どういうわけか俺はこの部長に気に入られているようで……正直苦手だ。
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