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感度が良いのも問題ですね_2
「い、いえ……すみません。先約があるので……」
「先約?珍しいね、いつも一人の君が……」
「ああ……えっと、ほら俺今新人受け持ってまして……ソイツと一緒に食べる約束をしていて……」
ああ、と思い出したように部長は口にする。
「そう言えばそうだったね。どうかな、新人君は?」
「まあ、態度は横柄ですが仕事は出来ますよ」
率直な意見を言えば、部長は珍しいものを見るような目をした。
「君がそんなに素直に誉めるなんてね。よっぽど優秀なのかな」
興味があるよ、と部長は楽しそうに笑う。
「はぁ、まあ、そうですね……。そういうわけですのでお昼はご遠慮させていただきます。すみません」
今度こそと一歩踏み出した足は、またしても部長の声で引き留められる。
「それならディナーはどうだろう?」
相変わらず腕は掴まれたままで、無下に振りほどくことも出来ない。
ディ、ディナー………。
蓮沼と初めて過ごした夜から一ヶ月が経った。
あの夜からアイツは飽きもせず、毎晩俺と過ごしたがる。
ただ、身体を求められたのはあの夜だけで、ほとんど食事をして帰宅するという流ればかりだ。
触れてきてもキス止まり。
多少身構えていた分、拍子抜けした。
いやいや、決して期待していた訳じゃない。
ただ尚のこと、アイツが俺に何を求めているのか分からないという話だ。
黙り込んでしまった俺を怪訝に思ったのか、部長が顔を覗き込んでくる。
「大丈夫?」
「へ?あ、すみません。今夜はちょっと……」
「夜も先約かい?」
「あはは……ええ、まあ……」
先約というか脅迫。
部長は残念そうに眉尻を下げた。
「そうか。残念だが今日は諦めることにするよ。また誘ってもいいかい?」
「ええ、ぜひ」
と言っても暫くは無理だな。
あの蓮沼の口を塞がん限りは…。
ようやく離された腕を確認して、俺は部長室を後にする。
はぁ、と重たい溜め息が溢れた。
最近、溜め息の数が増えたように思う。
それもこれも全部あの生意気すぎる後輩のせいだ。
毎晩、毎晩アイツに付き合わされて全然休まる暇がない。
このままじゃいけないと思いつつ、かといって他に方法も思い付かない。
いっそのことバラしても構わないと言ってみるか?
いやでももし本当にバラされたら……絶対にダメだ。
何が悲しくて自分の性癖を社内にバラ撒かれなきゃならんのだ。
ったく……そもそもどうしてアイツはあんなに堂々としてるんだ?
世の中をナメすぎなんだ、あの馬鹿は。
世間というものは自分が思う以上に厳しい反応を返してくる。
――男が男を好きだと言ったら、俺を見る周りの目はあっという間に変わっていったのだから。
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