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感度が良いのも問題ですね_3
まだ若かった高校時代。
男が好きだと自覚したきっかけは当時親友だと思っていた奴を、恋愛対象として認知したことだった。
……嫌なことを思い出した。
頭掠めた過去を振り払うように、首を振る。
今は仕事中だ、集中しろ。
自分のデスクへと戻っても何処か気持ちが上の空だった。
「せーんぱい」
イラッとするような声音に横を振り向けば、むにっと眉間に指先が突き当たってくる。
「眉間のシワ、凄いですよ?若くないんだから気を付けないと、痕になりますよ」
ニコニコと悪びれる様子もなく失礼なことを言ってみせる蓮沼。
「お〜ま〜え〜な〜ぁ!」
眉間を押し続ける指先を振り払い、説教の一つでもしてやろうと勢いよく立ち上がる。
「おっと、そんなに怒らないでくださいよ。昼休みになったと言うのに、いつまでも難しい顔してPCと向き合っていたので教えて差し上げただけです」
その言葉に辺りを見渡せば、確かに人が少ない。
時計を見れば昼休みが始まって既に十五分ほどが経過していた。
「ね?」
「……ああ、悪い。ボーッとしていた。けどな、もっと他に声の掛け方があっただろう?仮にも俺はお前の教育係なん――」
「――はいはい、分かりました。それよりお腹空きました、何か食べに行きましょう」
「おい、人の話を――」
「あ、僕またあのナポリタン食べたいです」
コイツ、全っ然人の話聞かねーな!
「だから話を――」
「嫌なことは良いことで塗り替えないと。空腹は人を暗い気持ちにさせますよ。ね、行きましょう?」
いつも見せるような取り繕ったような笑顔でも、
人を馬鹿にしたような意地が悪い笑顔でもない。
優しくふわりと蓮沼は俺に微笑み掛けた。
うわっ……コイツ、本当、顔だけはいいよな……。
不覚にも一瞬見惚れてしまって、視線を逸らす。
「あれ、先輩顔赤いですよ?僕に惚れちゃいました?」
「……なわけあるか。ほら行くんだろう」
余計な詮索を避けるため、足早に会社を出る。
「なーんだ、てっきり僕に惚れたんだと思ったのに」
はい、不覚にも見惚れました。なんて口が裂けても言えねぇ……。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ……」
「そうですか?案外的外れでもないと思うんですけどね」
後ろから聞こえてくる声音は、イタズラにそれでも確信を持って俺の耳に届いてきた。
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