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恋の仕方_3

蓮沼と並んで歩く夜道は案外静かだったりする。とは言っても無言なわけではない。当たり障りない世間話がポツリポツリと紡がれるが、不思議と煩くない。むしろ、少し心地良くもある。 「さて、では僕はこれで」 「え…………」 アパートのドアを開きながら俺は間抜けな声を出す。 てっきり無理矢理にでも上がり込んでくるとばかり思っていたのに、あっさりと帰ろうとする蓮沼に拍子抜けした。 「帰るのか?」 「帰らないでほしいんですか?」 「あ?違ぇよ、無理矢理上がり込んでくるのがお前の常套手段だろうが」 「ええ?やだなぁ、僕は紳士な男ですよ?」 この野郎……。よくもまあ言えたもんだ。 どれだけ冷めた眼差しを向けても蓮沼は楽しそうに笑うだけ。 「もう強引にする必要はないですからね」 「?」 「先輩が自覚……いえ、ご自身の気持ちを認めてくださるのをじっくり待つことにします」 「…………意味が分からな――んっ⁉」 油断したのがいけなかったのか、呆れて瞼を落としてしまったのがいけなかったのか。 ただ分かるのは俺の言葉を遮って、数秒間唇を塞いだのは今目の前で弧を描く後輩のそれだと言うこと。 「おやすみなさい、また明日」 去り際の言葉は男に向けるにはあまりにも甘い声音で、俺は文句の一つも言えずボロアパートの階段を下りていく背中を呆然と見送った。 「なっ…………」 我に返っても言葉をぶつける相手はもう居ない。 居たたまれなさに開いていた隙間へ身を滑り込ませ、後ろ手で勢いよくドアを閉じた。 な、何なんだよ、アイツは!? あんな、こんなおっさん相手に、女にするみてーな……。 「くそ……ムカつく…………」 気持ちを認める?何言ってんだよ。俺は、認めてる。 好きじゃない。好きになんかならない。 両想いなんてあり得ないんだよ。 「……うるさくしてんなよ。心臓(おまえ)も懲りねーな、本当」

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