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 気がつくと、部屋が薄暗かった。  カーテンが引かれ、隙間(すきま)からチラリと見える空は、薄曇りになっている。  隣には、裸の藤堂くんが、目を閉じて横になっていた。  全身がだるい。  少しみじろぎすると、おれも裸なことが分かって、でも、ベタベタしたり気持ちの悪いところはなかった。  拭いてくれたのだろうか。  2度3度、まばたきをする。  おれが目を覚ましたのに気づいたらしい藤堂くんは、一瞬おれの顔を見たあと、とんでもなくバツが悪そうに目をそらした。 「……ごめん」 「藤堂くん。もう、何が本当か分からないよ」  おれが泣きそうな声で言うと、藤堂くんはおそるおそると言った感じで、こちらに触れようとしてきた。  おれは何もしない。  彼は、おずおずと抱きしめて、ため息をついた。 「……虚言癖がある、と思う。意味ないところで嘘ついちゃう。むかしから」  抱きしめる腕が強まる。 「好きなのは本当。長々話したのも本当。なのに、そういうのをぶち壊しちゃうようなちっちゃな嘘が、口からついて出るんだ。傷つけないようにするなんてできなくて、それならそうと言えばいいと分かってるのに、なぜか真逆のことを言っちゃった。ごめんなさい」 「……じゃあ、あんな風にめちゃくちゃにするかもって自覚はあったんだね」 「うん。ふみのことを考えてるとき、そういう妄想が沸き起こることがよくあって」  理解不能の欲求。  おれは眉間にしわを寄せ、質問を続ける。 「その……嘘をつくのがむかしからっていうのは、それ、何か症状とかなの? 自分でも止められないような」 「分かんない。誰にも言えないよ、自分は嘘つきですなんて。本当のことすら信じてもらえなくなる」  じゃあなんで、おれには言ったの?  それは、おれのことが好きだからだとか、信じちゃっていいの?  色々言いたいことはあるのにうまく言えなくて、黙り込んでしまった。  藤堂くんは、深くため息をつく。 「大きな嘘とか、大事なことでだますようなことは、言わないんだよ。でも、日常で、そんなこと嘘ついてどうするのってことを言っちゃう」 「……? 俺を傷つけないっていうのが嘘なのは、それは、藤堂くんにとって大きなことじゃないの?」 「いや、ごめん。違う。そういうわけじゃなくてっ」  会話にならない。  でもそれは当たり前だった。  こちらが『藤堂くんの言うことは嘘かもしれない』という前提で疑ってかかっているのだから、会話なんて成立するはずがない。 「藤堂くん。おれはいま、疑心暗鬼だよ。言われたことのどこまでが本当かなんて確かめる術がないし、だまされてめちゃくちゃに犯されたって気持ちしかない」  拒絶するような言葉を口にしながらも、この布団を抜け出して帰ることができないでいるのは、藤堂くんのことが好きだという気持ちが消えていないからなのだろう。  皮肉な話だ。  彼の嘘にだまされているのに、おれは自分の気持ちに嘘がつけないなんて。  藤堂くんは、深呼吸を繰り返しながら、おれを抱きしめ続けている。  表情が分からない。 「本当にごめん。嫌だったら別れてくれてもいいよ。いつ嘘を言うか分からない奴と一緒にいるなんて、心が疲れちゃうと思うから」 「……それはね、」  と言ったきり、言葉が出てこない。  こんなことを言われて、暗に『これからも発言に嘘がある』と宣言されて、それなのにおれは、『好きな気持ちだけは本当なはず』という根拠のない考えを、信じ続けてしまう。  しばしの逡巡(しゅんじゅん)ののち、おれは言った。 「もし嘘ついちゃったときは、すぐに、いまのは嘘って教えて欲しい」 「うん」 「それから、嘘はついてもいいから、その分いっぱい、好きって言って欲しいな。おれも好きってたくさん伝えるから、受け止めて欲しいよ」  ぬくもりを求めて、藤堂くんの肌に頬を擦りつける。  藤堂くんは、おれの頭をさらさらと撫でながら答えた。 「ありがとう。ごめんね、ありがとう」  嘘をつかれることも、嘘を認めることも、きっとそのたび、お互い少しずつ傷ついていくのだろう。  けれどおれは、それでもいいから、いつかは彼と幸せになりたいと思った。

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