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第26話
山をひとつ越えた先にアレクサンドルが生まれた小さな村があった。
騎士団を辞め、屋敷にあった肖像画を燃やすと、俺は国王陛下から与えられた馬と多額の退職金を携え、その村を訪れていた。
気が変わったらアレクサンドルを連れて戻ってきて欲しいと陛下には言われていたが、俺にそのつもりは毛頭なかった。
緑豊かなそこは、騎士団のあったところよりも温暖で、太陽の光も眩しかった。
道ですれ違う村民の誰もが日に焼けた肌をして、明るい笑顔で俺を迎えてくれた。
村民の案内でアレクサンドルの牧場に辿り着くと、俺はその姿を探した。
「アレクサンドル……」
馬たちが広大な牧場でのびのびと過ごしている。
その様子を見ながら草むしりをしている栗色の髪をした後ろ姿を俺は見つけ、背後から抱き締めた。
「……ミーシャ……」
以前より少し痩せ、日焼けた肌。
その愛くるしい大きな瞳は涙で濡れていた。
「約束しただろう?ずっと一緒にいると……」
その涙を拭い、柔らかな唇に口付ける。
「でも……でもオレはもう以前のオレじゃない。ミーシャが好きだったオレじゃないんだよ。それでも一緒にいてくれるの……?」
力なくまっすぐ伸びたままの左腕を見せてくるアレクサンドル。
「俺の腕が代わりになる。お前の気持ちが変わらない限り、俺たちはずっと一緒だ」
俺はその腕を撫でながら言った。
「お前さえ傍にいてくれたら俺は他に何も要らない。愛しているんだ、サーシャ……」
かつてアレクサンドルが言ってくれた言葉を口にすると、彼の青く美しい瞳から絶え間なく大粒の涙が零れる。
「ミーシャ……!!」
空の色は青。
アレクサンドルの瞳と全く同じ、優しい色をしていた。
俺たちはこの空の下で永遠の愛を誓い、唇を逢わせていた……。
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