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第25話

俺が帰国し、ひと月が過ぎた。 戦いのない穏やかな日々が続き、俺は軍馬たちの世話をする事で気を紛らわそうとしていた。 そこに、あの時アレクサンドルを看病していた軍医が、護衛の騎士たちと共に帰国した。 アレクサンドルの姿は、どこにもなかった。 「……アレクサンドルはどうした?」 国王陛下への拝謁を終えた軍医を捕まえると、俺は尋ねた。 「アレクサンドル殿はご実家に帰られました」 「実家に……?どういう事だ」 心臓がどんどん早鐘を打っていくのが自分でも分かる。 「あの方は落馬の後遺症で左腕が二度と動かなくなってしまわれたのです。馬に乗れない自分をもう誰も必要としない、愛する人の傍にはもう居られない、そう話されていて……」 「何故だ!何故止めなかった!!馬に乗れずとも出来る事はあるのに何故……」 軍医に掴みかかっても、俺の思いを口にしても仕方ないと分かっているのに、胸の奥底から湧き上がってくる感情を止められなかった。 「勿論止めました。国王陛下からも戻ってくるようお手紙も届いていたんです。ですがアレクサンドル殿は愛馬を失った事にも大変心を傷めておられて、騎士団には戻れないと話されていました……」 「……そんな……」 俺は力なく、その場に崩れ落ちていた。 あいつが。 アレクサンドルがそんな事になっていたなんて。 「貴殿に伝えないで欲しいと言われましたが、貴殿がアレクサンドル殿の回復を信じてずっと静かに待たれていた事を知っておりました故、お伝えさせて頂きました」 そう言って、軍医は俺の前から立ち去っていく。 「…………っ……」 愛馬を失った悲しみも、身体が不自由になって相手に……俺に負担をかけてしまう事への申し訳なさをアレクサンドルが感じた事も、俺は理解出来ているはずだ。 だからこそ、離れず一緒にいたい。 アレクサンドルもそう思ったはずだと、俺は勝手に思った。 待っていろ、アレクサンドル。 俺は、必ずお前を迎えに行く。 そして、あの日誓った約束を果たそう。

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