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15.もう来ない?
食堂はだんだんと人が増えてきた。いつもこんなに賑わっているのだろうか。
不意に『ホントに姫が居る……!』と声が聞こえてきた。
食堂に来たばかりの生徒が言った言葉みたいだ。
姫? と思ってすぐピンときた。
夢野アリスの事だ。間違いない。
ゲーム中のなんかのイベントで姫と呼ばれていたはずだから。
それに彼なら姫と呼ばれるのにピッタリだし。
そう思い人と目が合わないよう気をつけながら食堂を見渡すと案の定、夢野が奥の席に座って他の生徒と話していた。
なるほど、夢野目当てで人が集まっていたのか。
なら早々に退却しよう。せっかく夢野目当てで来た人も俺が居たら視界的にも邪魔でしかた無いだろう。
もらった缶珈琲を飲み干し、早足で食堂を後にした。
兎月生徒会長からもらった缶珈琲のおかげなのかは分からないが、とりあえず授業で居眠りする失態は免れた。
※ ※ ※
さて来てしまった昼休み。
つまりヤンキー先輩、もとい白伊先輩に会う時間だ。
昨日あんな事があったから少し、いやだいぶ、いや凄く、すごーく気まずい。
先輩は昨日何でもない感じだったけど、俺も同じように出来るだろうか。
何なら今日は先輩は来ないなんて事にならないだろうか。
試験前だし忙しくて来れない、なんて可能性も無くはないはず。
そんな逃げの思考のままパンをかじっていたのだけど、いつも先輩が来る時間になっても先輩が来ない。
あれ、本当に来ないぞラッキー、なんて思っていたのに、だんだんと気持ちがざわついてくる。
本当に来ないのだろうか。もしかして、もう二度と……?
「……どうしよ」
ざわつく胸の意味も分からず、でもつい溢れた言葉に驚いた。
来ないで欲しいと思ったはずなのに、いざ先輩が来ないと嫌だと焦るなんて我ながら自分勝手だな。
「何がだ?」
「………っ! せ、先輩」
来た!
先輩の姿にざわついていた胸が別の意味で騒ぎ出す。
「何が『どうしよ』なんだよ」
「いや別に……そ、それより今日ずいぶん遅かったですね!」
「ああ、食堂にジュース買いに行ったらすげぇ混んでてよ……なんか安売りとかしてんのか?」
「へー……あまり食堂行かないので知りませんけど、何でですかね」
朝に夢野が居たから昼も夢野が居ると思って人が殺到したとか?
だとしたら夢野も罪づくりな男だ。サイン会とかしたらいいのに。
どかりといつもの様に先輩は俺の隣に座る。
いつも通りの先輩の様子にホッとする。避けられている訳じゃなくて良かった。
なんて油断してたらまた手に持ってたパンを食べられてしまった。
いや人が食べてるのが美味しそうに見えるってのは分かるけど、だからって毎回奪うのはどうかと思います。
そして代わりに渡されたのはカツサンド。毎度思うけど物じゃなくて言葉で謝るべきだ。貰うけど。
「毎回俺の食べないでくださいよ」
「良いじゃねえか、代わりのやってんだろ。ケチケチすんな」
ケチじゃない正当な抗議だ。
って事をカツサンドを食べ終わってから言った。じゃあ返せって言われたら困るから。
「おらこれもやるよ」
「だからコーラはいらな……カルピス?」
またコーラを押し付けてきたのかと思ったら白いカルピスだった。カルピスは好きだ。
「ありがとうございます!」
素直に受け取って礼を言う。先輩もやっと俺にコーラを飲ませる事に飽きてくれたらしい。何が楽しかったんだか。
プシッとペットボトルの蓋を開けニコニコしながらカルピスを飲んで、
「っ!?」
吐き出しかけた。
炭酸入ってる! 何で? とペットボトルをまじまじ見るとカルピスソーダと英語で書いてた。
こんなのあるのか。炭酸に興味なかったから知らなかった、てか騙された!
「〜〜〜っ」
「ほーら頑張れ」
口元を押さえて吐き出さないように堪えてる俺の横で先輩はニヤニヤと腹の立つ笑いを浮かべている。
この不良、許すまじ。
予想外の炭酸の刺激にうっすら涙を浮かべながら少しずつコクリコクリと飲み込んでいく。
ホントに何が楽しいんだこの先輩は。
口に含んでいた液体を全て飲み込めて大きく息を吐く。
そして怒りを込めて先輩を睨んだ。しかし、先輩の顔が何故かとても真剣な顔と言うか、てっきりまだニヤニヤと面白がっていると思っていたから予想外の表情に怒りよりどうしたのだろうと言う疑問が勝った。
「あの、先輩……?」
「……やべぇな……」
「は? ちょっ、んんっ!!」
口元に吹き出しかけたカルピスが付いていたらしく、先輩にベロリと舐められてそのまま唇を塞がれた。
逃げようとする俺の腰と頭を先輩がホールドする。
昨日の今日でまたキスをされている事実に思考が追いつかない。
ただ、昨日より長くて呼吸が苦しくなる。酸素を求めて口を開けばぬるりと先輩の舌が入ってきて、嘘だろ! と思い体が強張った。
何がどうなってこうなったのかと混乱している間に縮こまっていた舌を絡め取られて、舌同士を擦りつけられたり吸われたりされたら苦しいだけじゃない別の感覚が込上がってくる。
押し返そうとしていた腕は、いつの間にかすがるように先輩の胸元の服を掴んでいた。
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