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18.馬鹿だった
「──と言うわけで何を着ていったら良いでしょう」
「……テキトーに着とけば良いだろ」
「だからその適当が分からないから聞いてるんです!」
翌日さっそくヤンキーの白伊先輩に相談した。
なのにこの回答、相談相手を間違えただろうか。かと言って他に相談する相手は居ないし。
頼りないなぁなんて思いながら自分で買ってきたパックのジュースを飲む。もう先輩から飲み物は受けとらないと固く心に誓っている。
「……いっつもどんなの着てんだよ」
「えーと……、パーカーとかTシャツとかです。母が買ってきたものですけど」
「柄入ってるか?」
「いえ、ほとんど無地です。入っててもロゴとか英文がワンポイントで入ってるぐらいですね」
「ならそれで問題ないだろ」
「色! 色は何着たら良いですか!?」
「別にお前なら何でもいけそうだけどな……気になるなら白か黒かグレー着とけ」
「さすが先輩!」
「調子いいなお前……」
頼りないなぁって思ったのが顔に出てたらしい。
いやだって最初にテキトーな回答をした先輩が悪いのだ、うん。
誤魔化すようにへへへ、と笑えば先輩も呆れたように笑って頭をグシャと撫でた。
「で? いつ行くんだ」
「今週の土曜日です」
「帰り遅くなり過ぎんなよ」
「お母さんみたいな事言いますね」
「誰がオカンだ!」
いつも気怠げで面倒くさがりだけど、実は面倒見は良くてヤンキーだけどたまにひょっこりオカンが顔を出す。忙しい人だ。
「遅くはならないと思います。もうすぐ試験ありますし……」
「何で試験があると遅くならないんだよ」
「いやだって、勉強しないといけないでしょ?」
「試験勉強してんのか? 良い子ちゃんだなお前」
「え?」
試験勉強してたら良い子? 普通じゃないのだろうか。
この学園の偏差値は平均ぐらいだし、まったく勉強しなくても良いほど試験は簡単では無いと思うのだけど。
それとも勉強なんてしなくても余裕なほど実は先輩頭が良い?
「先輩はいつも勉強しないんですか?」
「まともにした事ねぇな」
「それで赤点取ったこと無いんですか?」
「馬鹿言うな」
やはり勉強しなくても平気らしい。意外と頭が良いんだなと感心していたら、
「……半分は赤点だ」
「はいぃぃぃっ!?」
全然平気じゃ無かった。馬鹿だった。
「声でけぇよ……。どうせ再試があんだからそこだけ勉強しとけば良いだろ」
「でもそれで落ちたら留年ですよ!?」
「バーカ、留年なんかするわけねぇだろ」
「そ……そうなんですか?」
あっけらかんと言う様子によっぽど自信があるのかと思った。しかしやっぱり違った。
「留年するぐらいなら辞める」
「………」
「めんどくせぇから……」
簡単に言ってくれるがそれまでの学費とか考えた事あるのかと今度は俺の中のオカンが騒ぎ出す。
「……勉強しましょう」
「は?」
「俺が教えますから勉強しましょう!」
「はぁ?」
はぁ? じゃない!
お母さんを心配させるんじゃありません。
渋る先輩に迫れば先輩の顔が少し赤くなった気がした。今更赤点が恥ずかしくなったのだろうか。
「……教えるって、二年の勉強をどうやってお前が教えるんだよ」
「少なくとも先輩よりは分かると思います」
「言うじゃねえか……」
前世では高校は卒業していたはずだ。
その記憶もあるし、友達が居ない俺は勉強ぐらいしかする事が無かった。
だから、自慢じゃないが勉強はそこそこできる方だ。
「と言うわけで日曜日に暇なら俺の部屋でしましょう」
「はぁ……めんどく──……お前の部屋で?」
「はい、俺の部屋は一人部屋なので」
「二人で?」
「はい」
「お前の部屋で?」
「はい」
「……お前の部屋で俺とお前だけなんだよな?」
「だからそうですよ?」
同じような質問を繰り返す先輩に首を傾げる。
復唱するほど重要な事だろうか。
「……行く」
「へ?」
「日曜だな。朝から行くから待ってろ」
「朝からですか? 別に昼からでも──」
「朝からだ。朝メシ持ってく」
「はぁ」
なぜ突然張り切りだしたのか知らないが、やる気を出してくれるのは良い事だ。
しかし朝ごはんまで持参するって、いったい何時に来るつもりだ。日曜日だけど早起きしなくてはいけないな。
まぁ自分から言い出した事なので文句は無いけれど。
「あ、私服写真とって送れよ。見てやるから」
「えっ、良いんですか!?」
「あぁ」
何時に起きようとか考えてたら先輩が今思いついたと言わんばかりに提案してきた。
それは俺にとっては願ってもない事だけれど先輩の負担にならないだろうか。
そう先輩に伝えたが先輩はそれでもかまわないと言ってくれたのでお言葉に甘える事にした。
この時はとてもありがたいと感謝したのだが、後日に後悔する事になった。
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