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22.試着、試着、また試着

  「ルイちゃん! 次はこっち着てみ?」 「その次はこれね!」 「………」  もう抗議の声を上げる気力さえ残っていない。  猫野と夢野が次々持ってくる服に着替えることかれこれ……もう何回目か覚えていない。  最初はジャケットとかかっこいい服を選んでくれていたのだが、だんだん怪しい方向に向かっていって、今猫野はフードに猫耳がついたパーカーを手に持っている。  どこにあったそんなもん。  そして夢野はそれレディースのコーナーから持って来なかったか? そんな短パンより短すぎるパンツ、ホットパンツと言うのかな? それを俺にどうしろと。  度重なる試着に疲れ切っていた俺は、悟りの領域に入っていて何も言わずに二人から受け取る。  一緒に着てしまえば一度に終えられるから。  猫野が選んだ猫耳パーカーと夢野が選んだホットパンツを試着したらパーカーは太ももまであるから下に何も履いていないように見える。  男の生足なんて見ていて楽しいものでは無く、鏡を見ながら心に盛大な火傷を負う。  しかし二人はタイミングを見計らって問答無用でカーテンを開けて言葉もなく俺を凝視する。  恥ずかしくていたたまれなくてパーカーの裾を手で下に引っ張り少しでも足を隠そうとしたら二人から「ぐぅっ………!」と変な声が出てスマホで連写された。  買うでもなく試着だけ繰り返して店に迷惑になるんじゃ、と思っていたが、店員さんからもどんどん試着を勧められた。  何でも二人が選んだ服がとても良く売れているらしい。  流石と言うか何というか、もしかしたら二人が触った服が欲しいだけじゃないだろうか。  ほら、推しのアイドルが触ったティッシュが家宝になるみたいな。  この二人なら有り得そうだ。  そして店員さんも何気に遠くから写真撮っていて勘弁して欲しいと思う。迷惑をかけてるから何も言えないけれど。 「ルイちゃん次はこれな!」  次に猫野が持ってきたのはニットの服だったが、ちょっと形が変わってて着方が分からなかった。  夢野は次の服を選びに行ってしまった。たがらそこレディースだってば。 「チエ、これ着方が分からないんだけど……」 「あー、じゃあ俺が着せてやるよ」  そう言って一緒に試着室に入ってきてしまって、狭い部屋に男二人が入るとかなり窮屈だ。  しかし着方を教えてもらうわけだから文句は言わずになすがまま猫野に任せていた。  ほとんど密着する形で背後から服を着せられていると、 「ひぅ……っ」  とつい声が出てしまった。  不意に猫野の手が俺の胸の突起に当たって驚いてしまったからだ。 「んー? どうしたのルイちゃん?」  背後から耳元で尋ねられ、何でもないと首を振る。  だって男の乳首を触っちゃったと知ったら猫野も気持ち悪いだろうし。  なのに猫野はまだその触れている物が服の装飾品だと思っているのか摘んだり引っ張られたりして必死で声を殺す羽目になった。  それ服じゃないから早く気づいて! と思い、もう教えてしまおうかと考えたが今口を開いたらまた変な声が出てしまいそうでふるふると堪える事しか出来なくなった。 「はぁっ……ルイ、そんなに震えてさ……気持ちいいんだ?」 「ふぁっ……や、そこっ、違……っ!」  いつの間にか腹部に腕を回されて背後からぴったりと密着されていて、肩から背にかけて広く空いているニットの襟ぐりから手を入れられたまま胸をまさぐられる。  もう何をされているのかも分からなくなってきて、おまけに耳元で感じる猫野の息遣いが荒くなっている気がしてなんだか怖い。  そんな時に首筋にぬるりとした感触が襲い、「ひっ!」と身を縮めた。  と同時に凄い音がした。メコッと言うかミシッと言うか、派手ではないがとても痛そうな音が。  そして背後から人肌が離れている事に気づく。  恐る恐る振り返れば怖い笑顔をした夢野が立っていた。笑顔なのに怖いと感じたのは初めてだ。 「ルイ遅くなってごめんね。そろそろ別の店に行こうか」 「あ、はい……」  何かあったのか理解が追いつかず呆然とする俺の前で、額と鼻から血を垂らす猫野をズルズルと引きずっていく夢野は逞しくてなんだかちょっとかっこ良く見える。  可愛い上にかっこいいなんて、パーフェクトすぎるだろ主人公。  それより壁がヘコんでるけどこれの弁償は良いのだろうか。  未だに遠くでカメラのシャッターを切っている店員さんに尋ねればかまわないと目を合わせないまま言われた。  その代わり後姿から振り向いている写真を撮らせてほしいと言われて要望に応えた。  この服は肩から背後にかけて開いてるから後姿は恥ずかしいのだけど壁壊しちゃったしね。  何に使うのか知らないけど俺の写真なんかで良ければいくらでもどうぞ。  

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