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31.食堂に行こう

   指定のジャージに着替えて部屋を出る。  休日はみんなこの格好で寮をうろうろしているので問題ないだろう。 「お待たせしました」 「行くか」  先輩は当然のように俺の肩を抱き歩きだす。  まぁもうこの程度のスキンシップは慣れたけれど……いや嘘だ、まだ恥ずかしい。  しかし絶対に嫌だと言う訳でもないのでそのままの足で食堂へ向かう。  そして俺達が食堂に入ると、楽しげに賑わっていた食堂がざわついた気がした。  俺が来ると静まり返る事が多いのに、いつもと違う反応にビクリと肩が揺れてしまう。  そんな俺を気遣ってなのか先輩が肩を抱いていた手に力を込め足を進めると、更にざわつきが酷くなり、あぁそうかと納得する。  俺が先輩と親しげにしているからだ。  白伊先輩は格好いい。  ゲームの主要キャラクターになるほどだから当然だけど、きっと主人公の夢野アリスで無くても先輩に好意を持つ人はいるだろう。  それが恋愛感情か純粋な憧れかは知らないが、人気があるのは間違いない。  そんな人気者と俺が仲よさげに肩を組んでいたらざわつきもする。  実際、俺を睨んでいる視線も目に入ってしまった。  嫌われてるくせに調子に乗るな、身の程をわきまえろ、その人はお前なんかが隣りに居ていい人物じゃ無いんだ、そう言われているようで申し訳なくて顔がどんどん下がってしまう。  これ、明日になったら下駄箱に呪いの手紙とか果たし状とか入ってるパターンじゃないだろうか。 「あのな、この際言っとくけどよ……」  俺が床に視線を落としてしまっていたら、先輩は俺を周りの視線から隠すように引き寄せて言った。 「奴らがガン飛ばしてんのはお前にじゃねえ、俺にだ。そんで俺はそんな奴らどうでも良い。だからお前は堂々としてろ」  そんな言葉に驚いて顔を上げたら先輩は券売機で何を買うか迷うように前を見ていた。  でも少し頬が赤い気がして、もしかして照れているのだろうか。  そう言えば部屋でもフードを被せられたけれど、あれも照れ隠しだった?  なんだか胸が熱くなる。  慣れないくせに、俺を励まそうとしてくれているのだ。  睨まれているのは自分だと言うけれど、きっとそれは俺を安心させる為の嘘だろう。  だって先輩が睨まれる理由が無い。  でも、その嘘が嬉しかった。  唐揚げ定食を選び、先輩と共に食堂のおばちゃんに食券を出すと「やっと食べに来てくれたわね」とにこやかに受け取ってくれた。  ──お前は悪くない 好きなようにしていい 堂々としてろ──  先輩から言われた言葉が俺を守るように、もう周りの囁き声は気にならなくなった。  

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