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32.雑言

  「……っ!!」 「……大げさだろ」  俺は出来たての唐揚げを頬張りながら感嘆の声を上げる。  ずっと弁当や惣菜パンばかりの生活だった俺にとって、出来たて熱々の料理は正にごちそうなのだ。  添えられたシャキシャキのレタスや優しい味の味噌汁にも感動してしまう。  美味しい美味しいと食べてたら笑われたけど気にせず箸を進める。  すると先輩からメンチカツを一切れ目の前に差し出されて思わずパクリと口に含んだ。  夢野や猫野からされていたからアーンに抵抗が無くなっているかもしれない。 「美味しい……。メンチカツも美味しいですね!」  じゅわりと広がる肉汁にソースが絡んで絶品だ。  次はメンチカツ定食を注文しよう。  次も、先輩は食堂に付き合ってくれるだろうか。 「唐揚げ一個くれ」 「……あ、はいどうぞ」  考え事をしていて少し反応が遅れたが、先輩に唐揚げの皿を差し出す。  しかし何故か眉を寄せられて何か間違えたかな? と思っていたら先輩は無言で口を開けてこちらを見ていて、これはもしやアーン待ちだろうか。 「ど……どうぞ」  仕方ないので唐揚げを箸で掴み先輩の口元に運べばパクリと食べられる。先輩は満足そうにしているが、周りの空気は不穏に揺れた。  先程からずっとこんな調子だ。  俺が先輩からメンチカツを貰った時も同じようにざわりと不穏な空気になっていた。  そりゃそうだ。学園の人気者と嫌われ者がアーンなんてしてたら驚愕して、お前ふざけんなそこ代われ、と不穏な空気にもなるだろう。  しかしながら俺が強要したわけでも無いし、若干の居心地の悪さを感じるが見えないふり聞こえないふりをして目の前の料理を堪能する。  周りからの視線をひしひしと感じるが、気にしないぞ。 「食堂ってデザートもあるんですね」 「日替わりだけどな。何か食うか?」 「いやもうお腹いっぱいなので……」  本当はまだ入るけれど、この空気の中で食べるのもどうかと思い断った。もっとこの空気に慣れる事が出来ればデザートにも手を出そう。  そこまで先輩が食堂に付き合ってくれたらの話ではあるが。  食堂はどんどん混んできている。皆休日は遅くに昼食を摂るのだろうか。 「そろそろ行きましょうか」  初めての食堂は十分に堪能したし、これ以上は俺の我儘で周りに迷惑はかけられない。  先輩と共に席を立ち、食器を洗い場に運ぶ。  いつか全メニュー制覇出来たらいいな、なんて思っていたら、 「……食堂行く時は俺を呼べよ?」  と言われて、目を丸くする。 「……んだよ、俺とじゃ嫌なのか」  怒っていると言うより少し拗ねたように言う先輩に、ぶんぶんと首を振る。  嫌なわけ無い、ただ驚いただけだ。  まるで俺が欲しい言葉を分かってるみたいに、しかもタイミング良く言ってくれるから、嬉しいと同時に驚いたんだ。 「また一緒に来てくれるんですか?」 「そう言ってるだろ。来たい時は俺に言え」  相変わらず俺様な物言いだけど、それでもやっぱり嬉しくて、 「へへ……ありがとうございます!」  嬉しい感情をそのまま素直に言葉と顔に出した。  すると、急に食堂がシン……と静まり返って突然の静寂に驚く。  俺、また変な顔になっていただろうか。  なんだか急に食堂に居るのが恥ずかしくなって来て、食器を戻して早足で出ようとする。  でも、少しずつ賑わいを取り戻してきた雑談や囁き声のその中で、俺は聞きたくないも言葉を聞いてしまう。  ──あんなヤツと一緒なんて可哀想に……  好き勝手に飛び交うの雑言の中で、その言葉だけがいつまでも頭にこびりついて離れなかった。  

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