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40.添えられる手

   僅かな間に合わさった唇が今更熱く感じる。  間近にある鋭い視線から逃れられない。  俺たちは今、何をしているんだっけ?  腕を掴まれている訳でも、抱き寄せられている訳でも無いのに、捕らえられたように動けないのは何故だろう。  兎月会長の長い指が俺の下顎に添えられ、唇に添えられ、そろりとなぞられる感触に僅かに体が震えた。 「か……」 「か?」 「かっ、……帰ります!!」  声帯を震わせることが出来たのは奇跡かもしれない。  その奇跡を無駄にせずに早口で申し立てる。 「そろそろチャイムも鳴りますしっ!」 「変なこと言ってすみませんでした!」 「お茶美味しかったですありがとうございました!!」 「今度は差し入れ持ってきます!!」  もう自分が何を言っているのは良く分からなくなってきたが、何かしゃべっていないと自分が自分で無くなってしまいそうなのだ。  しかしそのままの勢いで立ち上がる事が出来たから、転けそうになりながらも閉められたドアへ足を向けた。  一刻も早く此処から去らないと、大変な事が起こってしまいそうな気がする。  なのに、ドアノブにかけた手の上から大きくて綺麗な手が握られてきて、心臓が飛び跳ねた。  とても優しい力で、触っているのかどうかも分からない程の力で俺の手に添えられている。  背後から俺を閉じ込めるように覆いかぶさっている体はやはり触れるかどうかの距離で、僅かに兎月会長の体温が伝わってきた。 「覚えておきなさい木戸ルイ……──」  相変わらず静かな、それでいて感情の見えない澄んだ声が間近で聞こえた。 「──……貴方に相応しい男は私です……」  俺の手ごとドアノブが回された。  開けられたドアによろけるように足を踏み出し、その後の授業の内容は覚えていない。  明日から試験だってのになんてこった。  

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