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39.教えて生徒会長

  「はぁ……おいしい……」 「それは良かった」  準備室へ連れて行かれた俺は、難しそうな問題集に目を通している兎月会長の隣で久しぶりの香り高い美味しいお茶を堪能していた。  幸いここへ来るまでほとんどの人には会わず、睨まれるような事は無かった。 「明日から試験期間ですが勉強は進んでいますか?」 「えーっと、それなりに……」  突然会話を振られて短い返事をした。  寡黙な人だから珍しくてとっさに短い言葉しか返せなかった。  俺の周りは賑やかな人が多いし、白伊先輩も賑やかとは言えないが割とよく会話を繋げてくれる。  しかし兎月会長は必要最低限の話しかしないし、会話を楽しむと言うタイプでは無いと思う。  それでも無言の中で気まずくならないのは、兎月会長が会話が無くても気を使ってくれているのが分かるからだ。  決して無関心ではない、自分を気にしてくれているのが分かるから、嬉しいしそばにいて心地よいのだ。  ホントに面倒見が良い人だとつくづく思う。 「悩みでもあるのですか?」 「は、え? え……」  突然飛んだ会話に思わずお茶を落としそうになる。今の会話にもなっていない会話のどこにそんな要素があっただろうか。  俺の戸惑いが伝わったのだろう、問題集に向いていた視線を俺に向けてポンと頭に触れた。 「気分が沈んでいるように見受けられましたので。勉強の事でないならプライベートの事ですか?」 「………」  やっぱり、この人は凄いと思う。  ほとんど接点の無い生徒の事まできちんと見てくれている。  頼りになって、優しくて、これで優しげな笑顔でもあればファンは倍増しそうだ。  いやこの冷た気な無表情で優しく手を差し伸べるギャップが良いのかもしれない。 「話したくなければ無理に話す必要はありません」 「いや、そんな大層な事では無くて……。ただ、友達付き合いって難しいなぁって……今までまともに友人が居なかったので上手く出来なくて落ち込んでいただけです」 「そうですか」  短い返事と共に再びポンポンと頭に手を添えられて、子供扱いをされているような気もするが、それが嫌でも無かった。  無理に聞き出すでも無く、静かに俺の話に耳を傾けてくれる優しさに甘えてしまいたくなる。  だからだろう、言うはずのなかった言葉が溢れてしまったのは…… 「………キスって、どういう時にするんでしょう?」  言って、あれ俺は何を言っているんだ? と自分で自分にびっくりしていたら、兎月会長からの返しに更に驚愕する。 「……誰かにキスをされたのですか?」 「……っ!?」  鋭すぎるだろう! と手に持っていたコップを震わせて何とか誤魔化そうとしたが、これだけ動揺してしまってはもう誤魔化しようもないと悟る。  非常に恥ずかしいが、だがいっそ良い機会だと半ばやけくそになり打ち明ける事にした。 「その……はい。友達同士ならキスぐらいするって言われて……」 「友達……にキスを?」 「はい……」  顔は兎月会長に向いているがとても視線を合わせられなくて、会長のきっちり締められたネクタイを見ていた。  思い切って打ち明けたが、やはり秘めておくべきだっただろうか。  おそらく恥ずかしさと後悔で真っ赤になった顔のまま兎月会長の出方を伺っていたら、静かな口調で語りだす。  まるで講義に立っているような丁寧な口調で、一つ一つの言葉を俺に教え込ませるように。 「友達と言う人物がどのような考えであなたにキスをしたのか、友人同士であればキスをすると言うその感性は私には分かりませんが……」  兎月会長の手が、俺の手にあるカップを受け取りテーブルに置いた。  それを視線だけで追っていた俺は、自然な動作で近づいてくる兎月会長に気づくのが遅れ、チュ……と軽いリップ音に気づいた時にはもう離れていた。 「……私がキスをしたいと考える相手は、恋愛感情のある人物にだけです」  間近にあるエメラルドグリーンの瞳が、俺を捉えて離さなかった。  

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