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38.お久しぶりです
「……それで、何をしているのですか?」
「え? あぁ、えっと……」
予想外の人物の登場に無駄に焦ってしまう。
だってたぶんこんな所でご飯をたべるなんて規則としてはアウトな気がする。
それを学園の支配者、生徒会長様に見られたら気まずい事この上無い。
しかしゆったり腰を下ろして食べかけのパンを片手に持っていたら誤魔化しようが無くて、素直に頭をさげた。
「すみません、ご飯を食べてました……」
「……このような所で食事をするのは感心しません。特別に許可しますから準備室に来なさい。ここよりはまだマシでしょう」
気まずくて上げられない頭をポンと触られる感触があって、淡々とした口調で告げられた。
怒っている様子は見られなくて、それどころか食事場所まで提供してくれると言う。
俺が普通の場所で食事が出来ない事情も理解してくれているのだろう。
無表情で厳しい人のように見えるけれど、全校生徒から選ばれるだけあってどんな生徒にも手を差し伸べてくれる面倒見の良さを持っているようだ。
しかし、準備室で食べるとなると白伊先輩と食べられなくなってしまう。
ヤンキーと生徒会長って相性悪そうだし、兎月会長が白伊先輩にまで許可してくれるとは限らない。
いや、そもそも白伊先輩はもう俺と食べる気は無いのかもしれないが、まだそうと決まった訳では無い。
ならば連絡がつかない今は、やはりここで待って居たいと思ってしまうのだ。
「あの……試験期間中は午前で学校が終るので良いのですが、その後はここで食事をする事を許可してもらえないでしょうか? 必ず掃除して帰りますので」
無理だとは分かっているが、一応言ってみる。
だが、予想通り「無理ですね」と短い返事があった。そりゃそうだ、と苦笑していたら、
「明日からここは立ち入り禁止になりますので」
と今度は予想以上の言葉が返ってきて絶句する。
「は、え!? 何で……ですか?」
「階段の補修工事に入るからです。音のなる作業やペンキを使用する作業は学園が休みの日に行いますが、下準備として明日から業者が入ります。ここはおそらく作業道具の置き場として使われるでしょう」
「そ、そうなんですね……あの、いつまで?」
「予定では二週間ですが場合によっては延びる可能もあります」
「……分かりました」
なるほど、ここを使い続けるのは無理だろうと納得している俺に手が差し出される。
「行きますよ」
「あ、はい」
相変わらず有無を言わせないオーラに、その手を取るのが当たり前のように思えて手を添える。
手を引かれてそのまま歩きだすから、俺も片手にパンを持ったまま隣に並んで歩いた。
これはこれでまた周りから睨まれそうだと思う。なんせみんなの憧れ生徒会長様だ。
出来るだけ人に会いませんようにと願いながら、兎月会長に手を引かれて準備室へ向かったのだった。
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