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37.親衛隊かな?

   全く考えない訳では無かった。  だが、それよりも自分の思いが優先していたのもまた事実。先輩と一緒に居たら俺が睨まれるんじゃないか、俺がいやがらせをうけるんじゃないか、なんて自分の事ばかりだったから。  しかし、もっと先輩の事も考えるべきだったのかもしれない。俺が気にしないだけでは駄目なのに。  俺がそばにいる事でどれだけ先輩に迷惑がかかるのかを……。  俺と過ごす事で自分まで奇妙な目で見られたり、コソコソと横目で囁かれたり、妙な距離を置かれたりして、先輩はどう感じただろうか。  俺の前では何でもないように笑っていたけれど、不快に思わないはずが無い。  だから、俺と一緒に居る事にうんざりしている可能性だってあるのだ。 「……よし、ラインしてみよ」  どんどん気分が沈んでいくけれど、一人で悩んでいても仕方が無い。  ここは手っ取り早く本人に確認するのが良いだろう。 『今日昼休みどうかしたんですか?』  と簡潔に送ってみた。  先輩はそんな人では無いと思うけれど、もし俺と居るのが嫌になったなら教えてほしい。  もしそうなら、俺ももう近づかないから。  予鈴が鳴った為、仕方なく教室へ戻った。  その後は授業が終わる度にスマホを確認するが、誰からも着信は無くて気落ちする。  だがそれを責めるのはお門違いだと分かっている。先輩だってプライベートがあるのだから俺にばかり構ってられないだろう。  そうは分かっていても時間が空けばスマホを確認しては落ち込む事を繰り返し、とうとう夜になっても返事が届く事は無かった。  そして迎えた朝。  目が覚めて一番に、未練がましくスマホを確認する。  もちろん返事は無くて、もういい加減諦めようと決めた。  明日から試験が始まり、いつまでもスマホにかじりついている訳にもいかないのだ。 「おはようルイ! どうしたの暗い顔して」 「あ、アリス……おはよう。俺暗い顔してた?」  一人で登校している最中に、夢野に後ろから抱きつかれて元気に挨拶されるが、俺の顔を見た途端心配そうに顔を歪めた。 「何かあったの!? 僕で良かったら話ぐらい聞くよ? ラインでも良いし!」 「ありがと……。心配かけてごめん、俺は大丈夫だよ。でも話聞いてほしくなったらラインさせてね」 「もちろん! いつでも待ってるからね!? それに用がなくても連絡して……──」 「──おはよう夢野くん! 今日日直だよね? ほら急がないと!」 「ちょっ、邪魔すん……っ」 「今日は試験なので色々忙しいですよきっと!」  話している最中に同級生が割り込んできて、あっと言う間に夢野を連れて行ってしまった。  あれかな、夢野アリスとか猫野チェシーの親衛隊みたいなのが出来てて守ってたりするのかな。  うん、あの二人ならファンクラブや親衛隊とかありそうだ。  俺なんかと話してたらそりゃ引き剥がすよね。すいませんねー。  夢野の優しさに癒やされて、夢野の親衛隊(?)にちょっと拗ねて今日という日が始まった。  始まって、あっと言う間に昼休み。  だって誰も話しかけて来ないから何も語ることがないのだ。  俺からも話しかけられないしね。目が合えば思いっきり目をそらす同級生に話しかける度胸は無い。  唯一の望みの夢野や猫野は常に人に囲まれていて俺の入る隙間は無い。  もう慣れているのだが、それでも少しの寂しさを抱えながらいつものように階段の踊り場で食事をする。  白伊先輩が来る気配は無く、更に寂しさが募りながら黙々と惣菜パンにかぶりついていたら、心のどこかで待ちわびていた足音が聞こえて手を止めた。  足音は間違いなくこの階段を登ってきている。  食べかけの惣菜パンを手に持ったまま、今か今かと登ってくる人物を待った。  何で昨日来なかったのかとか、何で連絡を返してくれなかったのかとか色々言いたいことはあるが、とにかくまた来てくれたことが嬉しくて自然と笑みがこぼれてしまう。  足音が近づいて、足音の主の姿が見えて、 「……へ?」 「………」  お互い目が合って、静寂が訪れた。 「………こんな所で何をしているのですか木戸ルイ」  静寂を破ったのは足音の主だった。 「兎月会長………」  俺を怪訝な目で見ながら、首を傾げた兎月生徒会長の金髪がサラリと揺れた。  

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