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36.こびりついて離れない
先輩が帰った後は、宣言した通り自分の勉強に取り掛かるが、全く集中出来ずにいた。
これまでこつこつ勉強してきたから慌てる事もないのだけど、思った以上に今日の出来事に動揺している自分に苦笑がもれる。
昨日も色々あって濃い一日だと思ったけれど、今日は更に濃い日だった。
まさか翌日に濃い一日ナンバーワンが更新されるとは思わなかった。自室と食堂にしか行ってないのにな。
机に参考書や問題集を広げていても、全く手が動かない。
今日はもう早めに休もうと、シャワーを浴びてベットに入った。
なのにしばらくして先輩から送られてきた俺のウサ耳写真に眠気は吹っ飛び、さっさと削除するようにと説得文を送ることになったのだった。
※ ※ ※
翌朝、下駄箱には呪いの手紙も果たし状も入って無くて安堵した。
上履きを隠されたり画鋲を入れられたりもしていない。良かった。
先輩と仲良くしている所を見られて何かされるんじゃないかとヒヤヒヤしていたけれど、相変わらず俺の周りには誰も寄ってこず、何事もなく午前は過ぎていった。
まぁ、みんなもわざわざそんな子どもじみた嫌がらせをするほど暇でも無いのだろう。
周りが大人な人たちで良かったと、いつものように階段の踊り場で先輩を待っていた。
今日先輩が来たら、また食堂に付き合ってもらえるか聞いてみるつもりだ。
先輩と食事をするぐらいなら周りも見逃してくれるみたいだから。
先輩は了承してくれるだろうか、何かお礼をしたほうが良いだろうか、でもまた恥ずかしい事を要求されたら嫌だなと考えていたら、いつの間にか昼休みは後半に差し掛かる。
「……先輩来ないな……」
とっくに来ていてご飯を食べ終わっていてもおかしくない時間になっても、先輩は現れない。
約束をしている訳でもないし、来ないからと言って先輩を責める事なんて出来ないけれど、寂しいと思ってしまう。
せめて連絡ぐらいしてくれても良いのにと思うのは贅沢だろうか。
何をするでもなく、ぼーっと窓の外を眺めていた。今日はずいぶんといい天気だ。
──あんなヤツと一緒なんて可哀想に──
不意に蘇る囁き声。
「……あぁもう……っ」
せっかく忘れていたのに、なぜ今頃思い出すのだろう。
一晩たって忘れていたつもりだったのに、頭の隅でしつこくこびりついていたようだ。
それを今頃思い出すなんて最悪だと思うけれど、本当は心のどこかで、考えていたからかもしれない。
否定したいけれどあり得なくも無い、青空に反してどんよりと曇った嫌な考え。
先輩が来ないのは、俺が原因かもしれない、と。
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