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48.なんで?

   さすがスポーツマンと言うべきか、俺は少し小柄とは言え高校男子の体を軽々持ち上げる猫野に感心する。  しかしこの体勢はどうかと思う。  猫野は誰よりも体が大きいから俺の体はすっぽりと猫野の膝の上に収まっていて、背後から腕を回されたら俺の体なんて完全に隠れてしまう。  しかもいくら自由に使って良いと言っても机に座るのは怒られないだろうか。先生が見回りに来ない事を祈らなくては……。 「ねぇチエ、このまま食べるの?」 「おぅ! ルイちゃん温かいし可愛いしずっとギュってしたいなって思ってたんだよな! 嫌か?」 「いや、うーん……良いけど……」 「良かったー! ありがとなルイちゃん」 「うん」  何だか友達と言うよりもペットを愛でる扱いな気もするが、それが猫野流のスキンシップなのだろう。  いつも一緒にいる夢野もたいへんだろうな。 「は!? ルイちゃんおにぎりだけ!?」 「うんそう……チエそれ全部食べるの!?」  重そうな袋を提げてるなと思っていたが、全部食料だった。広げられるチエの昼ごはんに唖然とする。  おそらく食堂で詰めてもらった物だろうが、ご飯とおかずが山盛りの弁当に、これまた山盛りの焼きそばまである。  これが運動部の食事量か。 「これだけじゃ腹減るから部活前にもちょっと食べるけどな」 「まだ食べるの!?」  たくさんエネルギーを摂らないとハードな部活に耐えられないのだなと感心していたら、再び体を持ち上げられて今度は横向きに猫野の膝の上に降ろされた。  そして俺の膝の上には猫野の弁当を置かれる。 「はいじゃあルイちゃん、あーん」 「えっ、良いよチエ食べなよ」 「じゃあルイちゃん食べさせて? でもこの唐揚げはルイちゃんのな。はいあーん!」  俺の口元から動こうとしない差し出された唐揚げに根負けして口に含む。  相変わらず食堂の料理は美味しかった。 「ルイちゃんのおにぎりちょっとくれな。その代わり焼きそばやるから。ここ焼きそばも美味しいんだ!」  おにぎりが欲しいと言われて口を開けたまま待たれたから、おにぎりを差し出してみたら大口でバクリと食べられた。  おぉ凄い食べるの早いなぁと感心している間に手の中のおにぎりは全部食べられた。だから手を離そうとしたら猫野から掴まれ、指に残っていた米粒を指ごと食べられギョッとする。 「ちょっ、ちょっとチエ!」 「んー? 食べ残しは良くないだろ?」 「そうだけど! くすぐったいよ……」  そう言って手を離そうとしてもつかんだ手の力は緩まず、指先から付け根まで舐められてくすぐったさにピクリと体を揺らした。  最後に指先にチュッとリップ音を残して「ごちそう様」と笑う猫野をジトッと睨んだがあまり効果は無かった。  それからは食べられたおにぎり以上の量の焼きそばやおかずをあーんで食べさせられて、そして残りは猫野が食べた。俺のあーんで。  猫野はあれだ、スポーツマン属性プラス甘えんぼ属性が入ってると思う。夢野も毎日大変だろうな。  昼ごはんも食べ終わってスマホを見たら夢野からラインが入っていた。 『猫野から嫌だと思う事されたら潰すんだよ!』と来てて、やはり日頃夢野は猫野からもっと過剰なスキンシップをされているのだろう。  俺は膝に乗せられてあーんをし合って指を舐められただけだから……俺の中ではあまり大丈夫では無いが心配かけたくないので『大丈夫』と返信した。  その後は日当たりの良い場所で日向ぼっこをするようにのんびりして、試験の出来だとか猫野の部活の話をして、テニス部のマネージャーにならないかとの誘いをやんわり断りながら昼休みを過ごした。  温かいのを通り越して少し暑くなってきたから猫野の膝から降りようとしたが「嫌だ!」と甘えるように抱きつかれたので、仕方なく窓を開ける。  心地よい風がふわりと吹き、今日は良い日だなぁと知らずに頬を緩めていたら、窓の向こう、少し遠い場所に見覚えのある姿が見えた。  ここの処ずっと音信不通が続いている先輩、ヤンキーの白伊ナイトだった。  俺がいるのは三階だし顔は僅かにしか見えないが、俺が先輩を見間違えるはずが無い。  そして、隣には、知らない生徒。  先輩はどこか楽しそうにも見え、見知らぬ生徒と仲よさげに肩を組み、校舎の向こうへと消えて行った。  開けた窓から爽やかな風が吹き抜けて、俺の頬を撫でた。 「ん……? ちょっ!! なっ、何で泣いてんだよっっ!!!?」  猫野の焦りを含む叫び声がどこか遠くに聞こえる。  あ、まずいな、思ったより、しんどいかも。  

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