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49.居てくれてありがとう

   先輩が音信不通なのは何かよっぽどの事情があるのだと思っていた。  そうで無ければ説明も無いまま連絡を断つような人では無いと思うから。  もしかしたら怪我でもしたんじゃないかって心配になり、先輩の教室まで行こうかとも考えた事はあるが、どの教室か知らないし、人に訊きながら探すなんて芸当は俺には出来なくて、でも心配で、でも人と話す事も出来なくて……。  今思えば、行かなくて良かったと思う。  だって、先輩は元気だ。  友達と楽しそうに話しながら何事も無く過ごしているのだから。 「───」  良かった、先輩を探しに行かなくて。  飽きたから離れて行ったのに、わざわざ会いに行くようなめんどくさい奴にならずに済んだ。 「────っ!」  良かった、惨めな思いをしなくて済んで…… 「──……イちゃんっ!!」 「………え?」  滲む視界に、必死な顔をした猫野が映った。 「何で泣いてんだよルイちゃん! 何があったんだ!? 俺何か嫌な事しちゃったか!? 俺の膝の上はそんなに嫌だった!?」 「あれ? あ、えっ!? あの、これは、ちがっ……ご、ごめんっ……」  猫野の言葉で自分が泣いている事にやっと気づいて慌てて袖で拭うが、崩壊してしまった涙腺から止めどなく流れてしまってどうしようもなかった。  何やっているんだろう俺は……  話していたら突然泣き出す友人なんて面倒くさい事この上ないだろう。 「ごめっ……ちょっと、トイレに……っ」  猫野だってこんな面倒くさい奴困るだろうと何度も袖で目を擦っても涙は止まらなくて、逃げるように猫野の膝の上から降りようとしたが、そんな俺を猫野の腕が包み込んだ。 「泣いて良い!! 無理して我慢しなくて良いから、泣きたい時ぐらい思いっきり泣けよ……」  力強く、けれども優しく俺を抱きしめる猫野の声は、何故か俺より辛そうだった。  俺の涙が、猫野の胸に消えていく。  止まらない嗚咽は、俺の頭を守るように包み込む大きな手のひらが我慢しなくて良いと語りかける。  駄目だよ、そんなに優しくしたら。  余計涙が止まらなくなるじゃないか。  トクリトクリと伝わってくる鼓動が、俺の乱れた気持ちを落ち着かせた。  先輩の気持ちが分からない。  気まぐれで俺と友達になってくれたのだとしても、それが俺にとってはどれほど嬉しかったか。  そんな俺の気持ちを蔑ろにするような人では無い筈なのだ。  強引で、我儘で、すぐ変な事をして来る困った人だったけれど、誰よりもそばに居てくれて、周りの目なんか気にするなと笑ってくれて、みんなの前で堂々と俺の隣を歩いてくれた人。  本当に俺に飽きたから離れていったのだろうか。  そうだとしても、何も言わずに離れていくだろうか。  他の人ならばそれも優しさだと思うかもしれないが、先輩に関してはあまりにもらしくない。  やはり、会おう。どうにかして先輩と話をしよう。  でなければ、俺の気が収まらない。 「も、大丈夫……ありがとチエ……」  決心したら気持ちも落ち着いて、いつの間にか涙も止まっていた。 「もっとこうしてて良いんだぞ? 授業もたまにはサボったってバレないって」 「駄目だよ、そんな事したらもうこの教室使わせてもらえなくなるかもしれないし……。それにホントにもう大丈夫だから」  そう言うと、ゆっくり腕の力が弱まって、泣きそうな顔した猫野が俺の顔を覗き込んできた。 「……なんでチエがそんな顔するの……」 「だってさ……」  なんだかおかしくてちょっとだけ吹き出してしまったら、猫野の顔が不貞腐れたものに変わった。  でもそれは、子供のような無邪気さがあってどこかホッとする。  猫野が居てくれてよかった。  一人で先輩を見てなくて良かった。  きっと一人だったら、ずっと嫌な考えがぐるぐると渦巻いて、そこから抜け出せなかっただろうから。 「一緒に居てくれてありがと……チエ」  改めて礼を言ったら、グッと何かを我慢するような顔をして、また抱きしめられた。 「いつでもそばに居るよ。ルイが嫌だって言ってもずーっと一緒に居るからな!」 「ありがと。チエは……ずっと友達でいてくれる?」 「……」 「……チエ?」  てっきり即答してもらえると思っていたのに返事が無い事に不安になって、体をずらして猫野を仰ぎ見たら、真剣な顔をした猫野と視線がかち合った。 「どうしたの……?」 「……俺さ、ルイちゃんとは友達より深い関係になりてーんだけど……」 「えっ……それって……」 「………」 「親友って事!?」 「いやちがっ…………………、うんそう」  親友、その言葉だけでテンションが上がってしまう俺はやはり単純なのだろうか。  しかし泣いていたのも忘れて浮かれてしまった俺は、笑っているがどこか遠い目をしている猫野には気づかなかった。  親友……うわぁ、物凄く青春っぽい!  

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