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50.姫と呼ばれるあいつの為に

  「ちょーっとお話聞かせてもらえませんかぁ?」 「ひぃい……っ!?」  背後から逃げないように首に腕を回し声をかけたら、この世の終わりのような声を上げられた。  ビビりすぎだろ。  今まで声をかけたほぼ全員から同じような反応があり、例に漏れず大袈裟なほどに萎縮する生徒を冷めた目で見る。  こちらからはご丁寧な言葉と満面の笑みで声をかけてやっているのに、なぜ怯えるのかと馬鹿馬鹿しくなり、 「お前、木戸ルイって知ってるかよ」  と優しい笑みを取り払い問えば、あいつの名前に反応した眼鏡モヤシくんの目が俺を見た。 「ひ、姫が、どうか、ししししましたか……?」 「姫、ね……」  へぇ、お姫さんの為なら頑張れるのか。クラス委員長みたいな見た目してやるじゃねえか。 「なかなか男気見せるじゃねえかクラス委員長」 「へ? ……お、俺はクラス委員長じゃありませ──」 「そんで、委員長はお姫さんをどう思う?」 「委員長じゃ……そ、そ、そりゃ、綺麗で……神秘的で、近寄りがたくて、高嶺の花で……住んでる世界が違って、見るだけでも恐れ多いぐらい美しくて、でもずっと見ていたくて……」 「……」  クラス委員長(仮)の返しに、一気に冷める。  こいつもか……。  どいつもこいつも、同じような答えを返してくる。  神秘的な存在、住む世界が違う、そばに寄るのは恐れ多い。  まるで、俺達とあいつは別次元の存在で、近づくのは非常識とでも言っているような、そんな言葉。  その結果が、あいつの今の現状を生んだのだろう。そしてその姿を見てもこいつらは何も感じないのか。  興ざめだ……とクラス委員長(仮)から離れようとしたら、こいつはどもりながらも言葉を続けた。 「でも………なんだか最近は、一人で、寂しそうだなって、思います……」 「……よしお前合格」  いた、あいつの現状に違和感を持つ人物。  思わずニヤリと上がる口角にクラス委員長(仮)がビクリと肩を揺らした。  だからビビりすぎだろ。 「そのお姫さんが悲しんでるとしたら、お前は何か協力する気あるか?」 「へ………」 「あ る の か ?」 「はっ、はいぃぃいっ!!」 「お前名前は?」 「も、森山です……」 「良し行くぞモブ山」 「あの、俺は森山と……」 「しっかり協力しろよモブ山」 「はい……」  未だになぜ自分が絡まれているのか分かっていない顔のモブ山を逃さないように連れ歩く。  さて、ここから仕掛け時だ。  

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