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68.チエ、呼び出される

  『──猫野チェシー、猫野チェシー、今すぐ職員室に来なさい』  俺がいじめにあっている子の事を考えていたら、突然の放送が二人きりの教室に響く。  思わず猫野と無言で見つめ合った。 「……チエなんかした?」 「いやー、特に思いつかねぇけど……」  思いつかなくても呼ばれたからには行かなくてはいけない。生徒に拒否権はないのだから。 「せっかく二人きりなのに……」と不満気に呟いた猫野は一度ギュッと抱きしめて甘えるように俺の肩にグリグリ顔を押し付ける。  相変わらず大きい体して甘えたな猫野だ。 「……しゃーねーな、行くか……」  満足したのか体を離した猫野は机から降りた。 「そんじゃちょっと行ってくるわ。なかなか帰ってこなかったら先に教室戻ってていいからな」 「分かった……」  教室を出ていこうとする猫野に、何とも言い表せない不安が襲う。  思わず伸ばした腕は、猫野の服を掴んでいた。 「ルイ?」 「えっ、あ……ごめん」  ただでさえ職員室に呼び出しなんて不安しかないのに、俺が猫野より不安な顔しちゃ駄目なのに、俺の気持ちなんて簡単に猫野に伝わってしまったようだ。  なのに、不安の渦中にあるはずの猫野は嬉しそうに笑った。  こんな時に笑えるなんて余裕があるんだなぁ、なんて見てたら屈んだ猫野が俺に近づいて、 「──っ!?」  触れるだけのキスをした。 「は……、え……?」 「ありがとな、心配してくれて……」  呆気にとられる俺に笑いかける猫野は、本当に嬉しそうで、少し頬が赤かった。  何でキスした? これも友達付き合い? 何でそんなに嬉しそうなの? 猫野が呼び出された理由は? 本当に大丈夫なの? 俺顔赤くなってない?  脳内で疑問が飛び交う俺を置いて、猫野は教室を出ていく。  扉を出る直前にまだ少し顔を赤くした猫野が嬉しそうに手を振るから、俺も無意識に振っていた。  もしこれが普通の友達付き合いだと言うのなら、この世界で生きるの、やっぱり俺には向いてないかも。  

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